劣悪なネット広告はメディアの自殺であり、ブランドの自傷行為だ

成長市場で負け組になった新聞雑誌のデジタル版
電通が毎年この時期に発表する「日本の広告費」の最新版が、3月5日に発表された。2025年の広告市場を媒体別に集計したものだ。総広告費は8兆623億円、その中のインターネット広告費は初めて全体の半分を超え、前年比110.8%の4兆459億円で相変わらず高成長だった。一方マス四媒体と呼ばれる新聞・雑誌・ラジオ・テレビはすべて前年割れ。新旧メディアの成長性の落差が続いている。
インターネット広告費の中には「マス四媒体由来のデジタル広告費」という区分がある。それぞれのデジタル版メディアの広告費で、ラジオはradiko、テレビはTVerやABEMAのことだ。ラジオデジタルは38億円で前年比111.8%、テレビメディアデジタルは807億円で前年比123.4%とインターネット広告費の伸び率と同じもしくは大きく上回って成長している。旧メディアもデジタル版で再び成長できる希望が出てきた。
では新聞デジタル、雑誌デジタルはどうだろう。それぞれ191億円で前年比97.9%、615億円で96.5%。紙媒体のデジタル版は伸びるどころか下がっている。この区分の数字が出た2018年以降の傾向をグラフにしてみた。

電通「2025年日本の広告費」よりインターネットと新聞デジタルを2軸グラフで筆者作成
新聞も雑誌も、2021年まではインターネット広告費の伸びに合わせて成長していたが、それ以降は全体の伸びから振り落とされるように伸び悩み、下がり始めた。成長市場に身を置けば上がることはあっても下がることはないものなのに。新聞と雑誌のデジタル版はすっかり「負け組」になった。なぜだろう。
良質なメディアも「通せんぼ広告」の麻薬に手を出していく
新聞雑誌のデジタル版、つまり玉石混交のインターネットで比較的真っ当なメディアの広告収入が減ってしまうのはなぜだろう。大きな傾向として大手プラットフォームに広告費が集中していることがある。また最近は生成AI高度化の余波もあるようだ。
だがそれよりもユーザー体験の劣化が大きいのではないか。広告が記事を読む邪魔をしてくる問題だ。
2010年代からこの問題はあったが、ここ数年で悪化の度合いが限界を超えているように思う。
以前は狭い画面に広告がひしめき合うことが不快だったが、最近はいきなり画面全体を覆う「通せんぼ広告」が当たり前になっている。元々は粗悪なメディアが品位も何もない広告表示として行っていたが、最近はどのメディアも平気でやっている。当然のように目の前に出してくる神経を疑う。しかもどうすれば閉じれるのかわからず余計に苛立ちが増す。

筆者がキャプチャーした通せんぼ広告の例(ぼかしをかけている)赤矢印は筆者が加筆
上の例では広告の中に閉じるためのボタンが見当たらず、迷った末に全体画面の左下に「close」の文字を見つけた。わかりにくくて不快だ。記事を読むのを諦めてしまうことも多い。
こうした傾向にユーザーも自衛し、2度とそのメディアに行かなかったり、広告を表示しないアドブロッカーを導入する人も多い。その結果何が起きるか。
売り上げが減っているので広告表示を増やす→広告収入が減る→さらに広告表示を増やす→広告収入が減る、という負のスパイラルだ。その行き着くところが「通せんぼ広告」。これに手をつけてはおしまいだ。それでもやってしまうのは、麻薬のようなものだからだ。やめたほうがいい、でも苦しいから手を出す、するとさらに苦しくなる、誰か止めてくれ。そんな状況に陥ってしまう。
だが今回の「日本の広告費」ではっきり出たように、こんなことをやっていても売り上げは減り続けるだけ。自分の首を自分で絞める自殺行為だ。
一刻も早く、麻薬のような劣悪広告を断ち、クリーンな広告空間に自社メディアを戻すべきだ。そうしないと日本のネットメディアは総倒れになってしまう。ある日気づくとプラットフォーマーしか残っておらずネットがスカスカの中身のない空間になるかもしれない。冗談ではないリアルな想像だ。
広告主企業の経営陣が対処すべき段階
ネット広告の劣悪化の議論は何年も出ているが一向に良くならない。結局、メディア自身にも広告会社にも止められないからだ。発注者である広告主が「そういう広告表示はやめてくれ」と明確に言わないと終わりはない。
劣悪な広告表示は、そのブランドも毀損する。こんな不愉快な気持ちにさせる商品は絶対買いたくない。そう思わせるから広告主はやめるべきなのだ。
だが最近言われるのは、企業の広告担当者も与えられた予算で最善の結果を得るためには止められない、という実態だ。だから、広告を発注する企業の経営者にこの問題を自覚してもらうことが必要だとの論調になってきた。
そこで昨年6月、総務省が「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に 向けた広告主等向けガイダンス」と題した文書を発表し、その中で「経営層が対策に関与することの必要性について」と広告主企業の経営者にメッセージしている。
企業の経営者はきっとネットを見ると「広告が邪魔で記事が読めないじゃないか」と私たちと同じように苛立ったことがあるはずだ。だがそんな不快な広告を出す企業の中に自分の会社も含まれているとは想像できていないだろう。
劣悪な広告表示の問題は、行き着くところこのギャップにある。企業の担当者を含めて広告の現場は2010年代から問題を自覚しており、業界団体によるアナウンスなども行われてきた。だが結局、どのプレイヤーもネット広告に関わっている当事者は限られた予算の中でパフォーマンスを求められ、「劣悪表示中毒」から抜け出せずにいた。このままでは本当にネット広告全体が破綻しかねない。
最悪の事態を防げるのは経営者しかいない。この記事を読んでいる中に企業の経営陣の方がいたら、すぐにでも広告担当者と問題を共有し、経営者団体などでも議論を呼びかけてほしい。
ネットメディアは様々な問題を抱えつつも、日本の民主主義を支えている。昨今の選挙でその重要性が増していることも見えてきた。民主主義を守るためにも、経営者の皆さんにはこの問題に対処してほしい。
日本最大のプラットフォーマーとしてYahoo!の責任を問う
ネットメディアの広告が劣悪化し、外資プラットフォーマーでは詐欺広告さえ跋扈する中、Yahoo!だけは健全な広告空間を守ってきた。その点を私は信頼し、MediaBorderの記事も転載している。
ところがYahoo!も昨年から、「通せんぼ広告」を導入した。Yahoo!よ、お前もか。
Yahoo!はニュースプラットフォームとして最大級だ。私は他のメディアで記事を読もうとして通せんぼ広告に遭遇すると、見出しをコピペしてYahoo!で読んでいた。広告に邪魔されることなく快適に記事を読めたからだ。
だがついにYahoo!まで「通せんぼ広告」に手を出した。プラットフォームとして日本の言論空間の一翼を担う使命感を持っていると信じていたが、失望した。
この場でYahoo!ニュースの責任者に問う。「通せんぼ広告」はやめるべきだ。これではYahoo!からさえ人々は離れる。それは時間の問題だ。真っ当な情報を届ける使命感を持っているなら、記事を邪魔する広告表示はやめてほしい。
幸い、私たちオーサーやエキスパートによる記事には「通せんぼ広告」は表示されない。もし出てきたら私はオーサーをやめるつもりだ。
Yahoo!に記事を提供するクオリティメディアはどうして抗議しないのだろう。新聞は社会の公器ではないのか。それならば、読者に記事を届けることを阻害する行為に意見を言わないのか。不思議でならないし、矜持はどうしたのかと言いたい。
(この記事は、Yahoo!にも転載する。果たしてどんな反応があるだろう。何かあったらご報告する。)
規制をかけないとネット広告は良くならない
メディアに対して規制をかけるのは良くないが、広告にかけるのはありだと私は考える。いまはそれが必要な時だと思う。
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