「九条の大罪」は2度味わえ〜原作漫画との対比から見える配信ドラマの戦略

Netflixシリーズ「九条の大罪」の分析記事です
境 治 2026.04.14
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Netflixシリーズ「九条の大罪」Netflixにて独占配信中 ©︎真鍋昌平/小学館

Netflixシリーズ「九条の大罪」Netflixにて独占配信中 ©︎真鍋昌平/小学館

原作と同じで違う、違うが同じ

Netflixで「九条の大罪」全10話を観終えた。一気見せず一話ずつ見るほうなのだが、早いペースで見たのは面白かったからだ。シリーズとして日本のランキングで1位を獲得しているだけでなく、グローバル(非英語)でもベスト10に入ったという。国境を超えて楽しまれている。
私は観終えてから、原作漫画を読み始めた。それぞれのキャラクターを原作ではどう描いているか興味を持ったからだが、そこで気づいたことがある。このドラマは原作のストレートな「映像化」ではない。設計が様々に違う作品だ。
改変している!と訴えたいではない。少なくともストーリーはほとんど変わってないし、同じセリフも多い。だが一方で、作品の構造が微妙に組み替えられている。なぜそうなったのか。そこに、いまの配信ドラマに必要な構造的条件が見える。
漫画の「九条の大罪」では登場人物たちの心情が掴みにくい。主人公の九条間人が何を考えているのか、読者にはほとんどわからない。必要以上のことは語らない。ただ、それはドラマもある程度同じだ。

意外だったのは、原作では相棒の烏丸真司も気持ちがほとんど見えないドライに見える人物であることだ。ドラマでは烏丸が九条を訪ねるところから始まるが、原作では序盤ですでに九条の事務所にいて、なぜいるのかよくわからない。
そのことをはじめ、読者は放り出される。断片的な行動と台詞から、自分で人物たちの内面を想像するしかない。これは不親切なのではなく、漫画として意図的な設計なのだろう。九条という人間をあえてすぐに理解させないことで、読者を「観察者」の位置に固定し、それによって社会の歪みがむき出しになる。
エピソードは案件ごとに描かれ、それぞれ異なる社会問題が浮かび上がる。飲酒運転、違法薬物、介護施設の虐待、AV出演トラブル。いわば「ショーケース型」の構造で、現代社会の闇を次々と陳列していく。
もちろん原作でも烏丸の背景は描かれる。父親の事件は8巻目で登場するし、家庭環境や正義への葛藤が本格的に掘り下げられるのはそれ以降だ。つまり原作は、長い連載の中で少しずつ烏丸の内面を明かしていく設計になっている。

観察する物語が、感情移入する物語に

つまりドラマ版が原作と大きく違うのは、烏丸の背景と心情が最初から前面に出ていることだ。原作では読み進んでようやく見えてくるものが、ドラマでは序盤から提示される。松村北斗が演じる烏丸を「視聴者の代理」として設計しているのだろうと私は考えた。
父の死、母の心労。家族の物語がドラマの冒頭から前に押し出される。烏丸がなぜ九条に惹かれるのか、なぜ離れられないのか。それでいてなぜ批判するのか。その「理由」がやんわり与えられる。柳楽優弥の九条が不気味な吸引力を放つ一方で、松村北斗の烏丸が視聴者の感情の受け皿になる。烏丸の内面に共感する一方、彼の目を通して九条の行動原理を徐々に理解していく。二人の対比構造が、ドラマ版の骨格だ。原作が「観察する物語」であるのに対し、ドラマは「感情移入する物語」に変わった。

ドラマでは烏丸の目を通して、九条をある程度「理解可能な人物」として受け止めていく。得体の知れない男ではなく、特異だが人間味のある存在へ。原作のあの冷たさは、意図的に薄められている。

「地面師たち」との類似と相違

ここで思い出すのが「地面師たち」だ。同じくNetflixの日本発ドラマとして大ヒットした作品だが、「九条の大罪」は「地面師たち」を意識しているように感じる。そして両作品を並べると、興味深い共通構造が見えてくる。
「地面師たち」で綾野剛が演じた辻本拓海。あの役は、詐欺師集団の世界に足を踏み入れ、異常なカリスマ(=ハリソン山中)に引きずり込まれていく「巻き込まれ型」の人物だった。烏丸真司の立ち位置は、これにきわめて近い。得体の知れない中心人物がいて、その引力圏に入った「普通に近い側」の人間を通じて、視聴者は物語に参入する。
ただし「九条の大罪」は、「地面師たち」に比べるといくぶんマイルドだ。あちらが持っていたグロテスクなまでの人間描写は、抑制されている。これはNetflixとしてより広い視聴者層を狙った判断かもしれない。

原作から配信ドラマへの変換の3つの理由

さてこうした改変は「劣化」なのか? 私はそうは思わない。むしろ、配信ドラマというフォーマットに必要な変換だと考える。
理由は三つある。

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