新しい金融の力で、日本のコンテンツが世界へ羽ばたくサポートを〜クエストリー代表・伊部智信氏インタビュー
キアヌ・リーブスを魅了した「HIDARI」をファイナンスで支えるベンチャー企業
今年のカンヌ映画祭は是枝裕和監督の「箱の中の羊」、濱口竜介監督の「具合が悪くなる」、深田晃司の「ナギダイアリー」がコンペティション部門に出品されることをはじめ、日本からの様々なクリエイターチームの話題が多い。その一つに、ワットエバーがドワーフ、TECARATとともに制作を進めているストップモーションアニメ「HIDARI」がある。

川村真司氏が原案・脚本・監督を務めるこの作品の主演声優を、なんとキアヌ・リーブスが務めると発表されたのだ。パイロットフィルムが公開されており、すでに世界で話題になっている。キアヌもこれを見て名乗りを上げてくれたらしい。この映像を見れば、それもわかるだろう。
伝説的彫刻職人・左甚五郎がノミやノコギリと奇怪な義手を駆使して復讐のために戦う物語だ。血飛沫の代わりにおが屑が散る見たこともないアクションには誰しも目を見張るだろう。
この映像をカンヌで披露したのは、国境を超えた大規模な投資を集めてビジネス的にも新しい仕組みを作るためのようだ。そのファイナンスを担うのが、金融スタートアップである株式会社クエストリーだ。同社CEOの伊部智信氏に、設立の趣旨や今後のビジョンなどインタビューした。

株式会社クエストリーCEO 伊部智信氏
音楽が好きだったことと「日本のために働きたい」が結びついて起業
――クエストリーを設立された経緯と背景を教えてください。
伊部智信氏(以下、伊部):新卒でゴールドマン・サックスに入社し、主に債券や外国為替を扱っていました。金額の規模が非常に大きく、お客様も金融機関がほとんどという環境でしたので、ダイナミックな仕事ではあったのですが、「ずっとこの仕事を続けるか」と問われると、疑問が拭えませんでした。
ニューヨークへ2年間赴任する機会があったのですが、そこで日本人であることを強く意識し「日本のために働きたい」という気持ちが自然と湧いてきたのです。
――直接的なきっかけは音楽だったそうですね。
伊部:実は私、音楽が大好きで、ゴールドマン時代も週末は音楽学校に通っている時期がありました。アーティストの方々とも接する中で、才能があるのに経済が伴っていない現実を目の当たりにしました。
一方で自分がいる金融の世界では、毎年信じられない規模のお金が動いている。その一部でもクリエイターの方々に届けられないかと考えたのです。
――最初から「会社を立ち上げる」というつもりだったのでしょうか。
伊部:いえ、最初はむしろゴールドマン・サックスの一つの事業としてできないかと考えていました。ちょうどイギリスのヒプノシスなど、音楽著作権に特化したファンドが台頭していた時期で、「なぜこれが日本にないのか」と感じて社内でも打診したのですが、「最低500億は必要」という話になってしまい、現実的ではありませんでした。
そこで発想を転換して、ごく小額でもフェアな分配ができる仕組みを作れないかと考えたのが、クエストリーの出発点です。
映像コンテンツの海外展開にこそ金融が果たすべき役割がある
――音楽からスタートしたのが、映像へとシフトした経緯を教えてください。
伊部:みずほ証券さんに音楽著作権ファンドの提案をしに行ったのが一つのターニングポイントです。議論を重ねる過程で「2000年代のファンドがなぜ消えたのか」という質問を受け、自分でも業界の構造を深く調べるようになりました。製作委員会とは何か、過去の失敗はどこにあったのか。そうして知識を積み上げていくうちに、音楽ではなく映像、特にアニメこそが投資需要もあり、かつ現場が疲弊している実態があることが見えてきました。
2〜3年前からは三菱やSBIがエンターテインメント領域に動き始め、みずほさんも「積極的に取り組もう」という空気になってきた。私たちにとってはポジティブな流れですが、「5年後・10年後に残る仕組みはごく一部」という緊張感は常に持っています。
――製作委員会方式についてはどのように評価されていますか。
伊部:実は私の結論は、「日本で作って日本で売るなら、製作委員会以上の仕組みはない」というものです。例えば、東宝さんが相応の配給手数料を取るとしても、入ってもらったほうがリターンは大きい。テレビ局や電通のようなプレイヤーがプロとして関わることで、日本国内での興行成績は最大化される。外のお金が入る余地はほぼないというのが率直な見解です。
ただ、「日本で作って海外で売りたい」となった途端に話が変わります。製作委員会の力が及ばなくなり、海外窓口権を持つ会社にほぼ丸投げ状態になってしまう。そこに、私たちの存在価値が見出せるのではと考えました。
――では、海外展開においてクエストリーはどのような役割を果たすのでしょうか。
伊部:今私たちが狙っているのは、海外から「全額出してもいい」と思われるようなプロジェクトに対して、対抗ファイナンスをするというものです。
例えば、「HIDARI」は製作費が10億円を超えるような規模感なのですが、日本国内では「難しい」という反応が多い。ところがアメリカの大手配給会社は「全額出す」とまで言ってきた。彼らにとっては普段150〜200億円の作品を作っているので、非常にコストパフォーマンスがいい投資に映るのです。
ただ「全額出す」と著作権がすべて向こうに渡ってしまう。私たちが半分ファイナンスすることで「権利を日本に残したい」という交渉をしませんか、という提案をしています。

一緒に取材に対応したCOO 大城理氏、前にあるのはアニメ企画「プリンセス・ぞのふ」のフライヤー
実写作品もデベロップメントから海外と組めば活路がある
――「HIDARI」は素晴らしい案件ですが、作品の目利きはどのように行うのでしょうか。
伊部:正直、金融側の目利き力はゼロだと思ったほうがいいというのが私の考えです。どのIPが海外で売れるかを金融の人間が判断するのは無理です。
だからこそ、韓国のCJ ENMやアメリカのパラマウント、A24のような、それぞれの市場で長年コンテンツ投資をしてきた方々の目線を重視しています。カンヌやアヌシーに参加しようとしているのも、そこでつながり「クエストリーが持ってくる企画はおもしろい」と思ってもらえること自体が価値になると考えているからです。
また、コンテンツとしておもしろいかどうかと、事業計画が現実的かどうかは全く別の話です。製作委員会方式であればある程度ラフな提案でも通ってきたかもしれませんが、海外の投資を引っ張ってくるとなれば、それとは比較にならないほど精緻に数字を作らなければ難しい。そういったところをサポートしていくことも私たちの役割だと思っています。
――日本の実写映画やドラマの海外展開についてはどう見ていますか。アニメに比べると難しいと言われますが。
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