【Podcastがついに来る!Vol.2】Podcastは、アテンションエコノミーへのカウンターパート〜Chronicle野村高文氏

Podcastについての第2弾記事です。
境 治 2026.05.20
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MediaBorderで何度か紹介してきた書籍、「プロ目線のPodcastの作り方」。この本に書いてある通りに進めて私は自分のPodcastを始めることができた。毎週配信し、様々な番組も聞きながら、私はPodcastがついに来るぞと感じてシリーズ記事を始めた。【Vol.1】ではPodcastへの興味の入口をもらったオトナルの八木社長にインタビューした。

Podcastを知れば知るほど、先の本の著者、野村高文氏がムーブメントの中心人物の一人だと確信した。ぜひインタビューしたいと、数々の番組を生み出しているPodcast Studio Chronicleを訪問し、お話を伺うことができた。ミーハーだが、本にサインもしてもらった。毎日デスクに置き、何かあると読み返す教科書のような本にサインをもらうのは感激だ。

Studioなので、インタビューを録音していただき、私のPodcast番組「MediaBorder Talk」で配信する。

記事化したので、ざっとテキストで読んでみたい方は以下をどうぞ。でも、せっかくなのでぜひ”聴いて”もらえればと思う。

Chronicle設立に至った経緯をまず聞いている。

音声への興味は、テキストの限界を感じたことから

――NewsPicksで編集業務に携われていた中で、音声業務を立ち上げたのはなぜでしょう?
野村高文氏(以下、野村):私がNewsPicksで音声コンテンツに取り組み始めたのが2019〜20年頃で、当時すでにアメリカではPodcastがかなり大きなビジネスになっていました。Gimlet Mediaというスタートアップ発の制作会社がSpotifyに大きな金額で買収されたり、ジョー・ローガンが100億円規模の独占配信契約を結んだりと、海の向こうでは明らかに潮目が変わっているなと観測していたんです。
もう一方で、私個人の問題意識として、テキストの仕事をしてきた中で、2010年代後半から動画や音声といった「しゃべるコンテンツ」に人が移っているな、という感覚がありました。以前はこれぐらいの反響があっただろうというものが、どんどん低減していく感じがあったんです。ずっとテキストの仕事をしてきたので「どうしようかな」と思っていた、そんな中で音声がアメリカで伸びているらしいと知り、「これは何かあるかもしれない」と思ってやり始めたのがその時ですね。

――NewsPicksでの社内プロジェクトを経て独立起業を決めた経緯は?
野村:社内で2年ほど音声コンテンツの立ち上げに挑戦したのですが、少し私の力不足もあり、当時数百人規模の会社の新規事業としてはスケールが足りない、追加投資はできないという判断になりました。ただ私自身は「これは結構やりようがあるんじゃないか」という確信が持てていた。大きな組織の中でやるよりも、小さいプレイヤーとして動いたほうがおもしろいものが作れるんじゃないかと思って、独立起業を選んだという感じです。

――ご経歴を見てなぜPodcastに?と思っていたのですが、そう聞くと自然な流れですね。
野村:もう一つ付け加えると、NewsPicksに入って間もない頃、TBSラジオの「デイキャッチ」という番組にコメンテーターとして出演する機会をいただき、3年ほど生放送を続けました。そのとき、あるタクシーの中で同僚と話していたら、運転手さんに「あ、声で分かりますよ」と言われたんです。ラジオをずっと聴いているタクシードライバーさんに声を認識されたことが、自分の中でかなり大きな体験として残っていて、「音声ってすごいな」と思いましたね。

数字以上の熱量がある―日本のポッドキャストの現在地

――日本のPodcastの現在地をどう見ていますか。先日開催された「Podcast Expo」もすごい熱気でした。基本は無料でしたが、有料のイベント会場もあり1日券が8,000円ほどしましたが、それでも大勢の人が集まっていて驚きました。
野村:あれは主催者側が、Podcastをちゃんとした文化と位置付けて安売りしたくないという意思を込めて、あえて高めの価格設定にしたと聞いています。

――その戦略が成功して、本当に興味がある人が集まった。つまり「Podcastは盛り上がってる!」ということですね。
野村:いろんな語り方があるんですが、まず定量的な面で言うと、毎年3月頃に公開されるPodcast実態調査では、ここ5年ほど聴取率が微増を続けており、直近では18.2%ほどになっています。成年人口に掛けると1,500万人規模がコンスタントに聴いている計算になります。
ただ、Podcastがリアルの場に現出する空間は明らかに大きくなっていると感じています。数字と実際のちょっとしたズレかなと。微増以上の高まりはリアルの現場を見ると感じますね。

――3月には赤坂のTBSの前でPodcast Festivalが開かれて盛況でした。
野村:あのイベントもTBSの方が「こんなに来るの?」と驚いていたそうです。

――Podcast来てる!とリアルな場で体感できているわけですね。
野村:さらに言うと、著名人がPodcastを選ぶ動きも出てきていますね。いちばん典型的なのが小泉進次郎さん。阪神の近本光司選手や俳優の長谷川京子さんなど、さまざまな方が参入してきています。

――野球選手なら普通はYouTubeチャンネルをやるのでは? と思ってしまいますが。
野村:おそらく、YouTubeが向いている人と向いていない人がいるからだと思います。
YouTubeはアルゴリズム上、最初の数秒で注意を引きつけ、サムネイルを工夫し、世間が評価するネタをやり続けるという価値観が基本にあります。一方でPodcastは、どの配信回も再生数がほぼ変わらないので、アルゴリズムをハックしようがないんです。つまりアジェンダ設定権が発信者側にある。今自分が大事だと思う話、話したい話ができる媒体なので、「YouTubeはちょっと…」という方にとってPodcastが選択肢として浮上してきたのかなと感じますね。

Podcast文化はどう形成されたか

――Podcastのイベントに参加すると、非常にハイコンテキストな会話が飛び交っていて、最初は少し入りづらさを感じました。専門的な領域で、次元の高い話をしているな、と。この新しい文化圏は何なのでしょう?
野村:一つは、ラジオのカルチャーを継承している部分があるのかなと思っています。ヘビーリスナーがニヤリとするような言葉遣いをさりげなく盛り込む、いわば健全な内輪感とでも言うべき文化ですね。初めて聴く方を排除しているわけではないけれど、昔から聴いてきた方が喜ぶようなセンスを出している。
もう一つ、Podcastは基本的に「密室の友だち同士の会話」なんです。動画の場合はカメラの向こうの視聴者に向かって話しかけるモードになりますが、Podcastは出演者同士の会話にリスナーが耳を傾けるという構造です。友だちとの会話では前提説明をいちいちしないですよね。「昨日あれ見たんだけどすごく良かったよ」といきなり入る。そのスタイルがハイコンテキストに聞こえる一因だと思います。でも、これが今の時代に求められているとも感じています。

――求められている、と。
野村:ええ。AIが要約的なアウトプットを非常に簡単に生成してくれるようになった今、メインメッセージそのものの価値は相対的に下がっています。一方で、生身の人間同士が嘘のない会話をしているということが、AIには出せないものとして逆に価値を持ち始めている。だからPodcastでは、密室での友だち同士のおしゃべりや、プロ同士の議論が受け入れられていくのだと思います。
とはいえ、僕の本では、入り口を広くするために「この番組は何のためにあるか」を毎回伝えることを推奨しています。

VideoPodcastには懐疑的な気持ちもある

――以前、野村さんがある番組で、VideoPodcastに対して「どうなんだろうね」と、少し懐疑的なニュアンスでお話しされているのを聴きました。
野村:今でもその気持ちはあります。というのも、私がPodcastで大切にしたいのは、アテンション・エコノミーへのカウンターパートとしての役割です。大事な情報は長い時間をかけないと伝わらない。イランの問題一つとっても、アメリカから見た視点、イランから見た視点、日本から見た視点がそれぞれ異なるはずで、それをちゃんと理解したうえで語るべきだと思っている。アテンションを取ることとその作業は相性が非常に悪いんです。
動画にした瞬間に、少しでも「だるいな」と思われたら別の動画に行かれてしまう。LINEの通知が来ただけで注意が飛んでしまう。音声の社会的役割を純粋に突き詰めると、映像はつけないほうがいい、というのが私の考えの根幹にあります。

――ただ、現在はご自身の番組「News Connect」でVideoPodcastも取り組まれていますよね。そこは考え方が変わったのでしょうか。
野村:私はビジネスパーソンでもあるので、世の中の流れに逆らうつもりはありません。流れが来ているなら向き合わなければ、と。ただ、その中でも自分たちらしさは損なわないようにしようと思っています。たとえばサムネイルは煽るタイプのものはまったく使わないですし、「ここが見どころです」といった強調もしない。代わりに何分何秒からどのトークが始まるかという目次だけをつけています。書籍の章立てのような感覚ですね。

――とはいえ、再生数40万回以上のものもありますし、ほとんどが万単位で見られています。
野村:やってみて面白いのが、Podcastのプラットフォームでよく聴かれる回と、YouTubeでよく回る回が必ずしも一致しないんです。ウクライナの戦地まで赴いて赴いて指揮をしたマエストロ吉田裕史さんの回は、私個人としても本当に価値のある回だと思っていたし、SNS上の反響もとても大きかった。ところがYouTubeでは数千再生で止まっていた。再生数の最大化だけを追いかけると、本当に大事なコンテンツが犠牲になるなと実感しました。

――最近は、YouTubeで人気のトーク番組をVideoPodcastと呼ぶ人もいます。そのあたりの定義をどう考えますか。
野村:定義に意味があるかは分かりませんが、私の定義は「耳で聴いたときと映像で観たときの情報量に差がないもの」です。その意味では、テロップなど視覚情報が非常に多くなっているものは、PodcastというよりYouTubeのビジネス映像だと私は整理しています。自分の中の軸としてはそういう考え方をしていますね。

生身の会話にしか生み出せないもの

――私もビジネス的な動画はできないなと思います。純粋に喋ってるのが面白いからPodcastに惹かれていますね。
野村:動画の方は項目立てて編集するでしょう。「今日のポイントはこの3つで」とか。生身の人間同士の話はもっとぐにゃぐにゃしていて、そこに面白さがある。
ロジカルな情報はAIが得意としています。「新NISAの効率的な投資方法を教えて」と言えばAIが答えてくれる。でも、生身の人間2人が座っているからこそ生成される会話が、一番価値があると思っています。項目1、2、3という構造化されたトークは、もともとあったものを確認しているに過ぎない。Podcastも一応トピックは用意するんですが、それよりも「今この空間だからこそ生まれた話」をどれだけ引き出せるかが大事なんです。

――たしかに、いまここに私と野村さんがいるからこその話ができている気がします。

※ここから先は、サポートメンバー向けにさらにディープな対話をお届けする。メンバー外の方は、申し訳ないがここまで。音声版も用意している。

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