日本映画作りすぎ問題〜是枝監督の問題提起を検証する

※本日の内容はPodcastのこの回でも少し触れています。
是枝裕和監督が日本経済新聞のインタビュー記事で、日本映画の構造的な問題を語っていた。

nikkei.com/article/DGXZQO…邦画成長へ作り手潤せ 監督の自己満足だけでは限界、是枝裕和氏日本のコンテンツの人気が世界で高まっている。2024年の輸出額は鉄鋼や半導体を上回るまでに育った。政府も戦略17分野の一www.nikkei.com
邦画は年間700本近く公開されているのに、そのうち9割は赤字だろう。そんな業界では職業として成り立たない。
「人材などの資本からみて、作品数が多すぎる。本数を絞る必要があるのに、誰もかじ取りしていない」との主張をしている。
この指摘に私は強く共感した。2000年代に映像制作会社にいた頃から感じていた。だが「多すぎる」と言うからには、何本が適正なのか。それを数字で示したい。
人口あたりで見ると、日本の制作本数は突出している
映連(日本映画制作者連盟)の発表によると、2025年の邦画公開本数は694本だった。では海外はどうか。
北米(米国+カナダ)の2025年の公開本数は602本だった。これは海外制作作品も含む数字で、過去データではそれらが15〜20%を占める傾向だ。そうすると国内制作作品は多くて511本と見ることができる。
フランスはCNC(フランス国立映画映像センター)によると2025年の純フランス映画は228本だった。
これらの数字から人口100万人あたりの自国映画公開本数を比較してみた。

日本は人口100万人あたり5.6本。米国は1.5本、フランスは3.35本だ。日本の制作本数が突出しているのがわかる。フランスが多いのはCNCの助成制度の効果もあるからで、制作費は一本平均約8.2億円にもなる。
ちなみにフランスでは映画の入場料の10.72%が税金として徴収され、それが国内で制作される映画に使われる。ハリウッド映画の興行収入の1割が国産映画に使われることになるわけだ。よくできていると思う。
日本は価値あるIPと質の高い作り手を安く提供する国
なぜ日本は700本近くも映画を作れるのか。答えは単純で、1本あたりの制作費が極端に安いからだ。
日本の実写映画の制作費は独立系だと数千万円、大手作品でも3〜5億円が主流と言われ、10億円を超えると「大作」と呼ばれる。フランスは先述の通り8.2億円。米国のスタジオ作品は100億円超も当たり前だ。
なぜ日本映画は制作費が安いのか。制作スタッフの人件費が低いからだ。
日本の映画制作現場については、2025年12月に公正取引委員会が実態調査報告書を公表している。フリーランスの取引環境や低賃金の実態が改めて浮き彫りになった。映画制作の労働環境適正化を認定する「映適」の制度も始まっているが、2024年度の認定作品はわずか約40本。694本のうちの6%にも満たない。
ある映画業界に詳しい関係者は、私にこう言った。「日本は価値あるIPと質の高い作り手を、安く提供している国になっている」と。世界的に評価される監督や脚本家がいて、独自のIPが豊富にある。現場スタッフも優秀で、総じて人件費が安い。
それに気づいたハリウッドが急に日本でのロケ作品を増やしているというのだ。
日本の作り手の報酬は韓国の3分の1から10分の1。それどころか最近は、中国や東南アジアより安いとも聞く。それでいてレベルが高いのだから使いたくなるだろう。
興行収入の配分構造もこれを固定化している。興収を100とすると、約50%が劇場、約20%が配給会社に渡り、製作者の取り分は約30%。ここから制作費を賄わなければならない。結果、制作費を抑えるしかなく、人件費が犠牲になる。
何本に絞るべきか、絞ったら何が起きるか
では具体的に、本数を絞るとどうなるか。シミュレーションしてみたい。
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