オールドメディアをオールドにしているのは、オールドメディア自身だ

週刊東洋経済の特集「オールドメディアの岐路」を読んで感じたことです。
境 治 2026.10.08
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まだ「紙」で語るのか

週刊東洋経済が今週発売の号で「オールドメディアの岐路」という特集を組んだ。テレビ、新聞、雑誌の現在地を多面的に追った読み応えのある特集だ。私もちょっとだけコメントで登場している。
特集の中で私がいちばん興味深く読んだのは、日本新聞協会の中村史郎会長のインタビューだった。
会長はそこで「紙の価値」を滔々と語っている。「紙には偶然出会うニュースがある。関心がなかったニュースも目に入る。大事なのは、作り手がニュースの価値を評価していることだ。」(週刊東洋経済:10月10-17日号・P45)
これを読んで、まだ紙の価値を熱弁するのかと驚いた。
同じ特集には、ダイヤモンド社の社長インタビューも載っている。週刊ダイヤモンドは2027年3月末号で紙の雑誌をやめるという。紙をやめる決断を語る経営者と、紙の価値を語る業界団体のトップが、同じ特集の中に並んでいるわけだ。
この対比を見て、ずっと感じていた違和感の正体がわかった気がした。「オールドメディア」と呼ばれて批判される側は、その呼び名に反発する。だが、オールドメディアをオールドにしているのは、実はオールドメディア自身ではないのか。

「オールドメディア」はいつ悪口になったのか

そもそも「オールドメディア」の言葉は悪口ではなかった。ネットのようなニューメディアと区別するための、ただの分類の言葉だった。メディア業界ではそういう意味で普通に使ってきた。否定的な意味を込めて使うネットユーザーも一部いたが、一般の人が口にする言葉ではなかった。
潮目が変わったのは2024年である。この年、二つの選挙でテレビと新聞は結果を読み違えた。
7月の東京都知事選で、テレビと新聞は「小池対蓮舫」の構図で選挙を語り、石丸伸二氏は「その他」の扱いだった。ところが開票してみると、石丸氏は蓮舫氏を上回って2位に入った。11月の兵庫県知事選では、失職した斎藤元彦氏が大方の予想を覆して再選された。
その兵庫県知事選の開票の夜、11月17日のことを私ははっきり覚えている。フジテレビ「Mr.サンデー」で、宮根誠司氏が「ある意味で、大手メディアの敗北ですよ」と言った。それを受けて、ゲストの泉房穂氏がこう続けた。「斎藤さんの勝利であると同時に、ネットの勝利、テレビ含めるオールドメディアの敗北の面が強いと思う」。
Xではその夜、「オールドメディアの敗北」がトレンドに入った。
この夜を境に言葉の使われ方が変わったことは、数字にも表れている。プレジデントオンラインの分析によると、Xでの「オールドメディア」の投稿は、2009年から16年までは月に100回から1000回程度だった。17年ごろから月1万回程度に増え、24年11月にそれまでの10倍以上に跳ね上がった。細かく見ると、投稿と検索が急に増えたのは11月17日からだという。
この言葉を否定的に使う傾向は前からあったわけだが2024年に起きたのは別のことだ。テレビ番組が、予測を間違えた敗北を認める文脈で、この言葉を全国に流したのである。テレビの自虐が「オールドメディア」を決定的に否定的な言葉にし、その使い方が一気に一般化した。偏っているし誤った予測を出すダメなメディアの意味で使われるようになったのだ。翌2025年には、新語・流行語大賞のトップテンにまで入った。
批判の言葉を広めたのは、批判される側だった。まずこのことを確認しておきたい。

誰もが「テレビは電波、新聞は紙」で話している

あれから2年近く、オールドメディアを批判するネット側と、それに反発するオールドメディア側の議論が続いている。だが、この議論はどうもおかしな構図になっている。
不思議なのは、批判する側も反発する側も、「テレビは電波で見るもの、新聞は紙で読むもの」という前提で話していることだ。
現実はとうに違う。テレビ局は番組をTVerやNetflix、YouTubeにどんどん出している。TVerの月間ユーザー数は2026年1月に4470万ユニークブラウザに達し、月間の動画再生数は6.3億回を数える。新聞社にはデジタル版があり、Yahoo!ニュースにも記事を出している。オールドメディアはもう、ネットの中にいるのだ。
それなのに、なぜネットの側に立たないのか。「SNSでは真偽不明の情報が」とネットを外から論評し、「我々テレビは」「紙の新聞は」と自分を経路で名乗る。テレビや新聞が自分を経路で定義すれば、批判する側も経路でくくってくるのは当然だ。「オールド」の批判に甘んじているのは、そのせいではないか。
冒頭の「紙の価値」は、その典型だと私は思う。

ネットの情報のルーツは大半がテレビと新聞だ

ネット側にも問いたいことがある。ニュースをオールドメディア発の情報に頼りながら、「マスゴミ」と批判していないだろうか。

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