BBCに遅れたNHK② ゴールを決めているBBCに、行き当たりばったりのNHKは絶対に追いつけない

①では、BBCが課金の根拠を先に配信へ広げ、視聴の移行を待ってから電波を降りてきた「順番」を見た。
NHKの近年の動きを並べると、その逆の順番が見えてくる。10月21日の会長会見と、27日に発表された2027年度からの経営計画案は、それをあらためて浮き彫りにした。
根拠を動かさずに、出口だけを探してきたNHK
2023年10月、NHKは受信料を約1割値下げした。その結果、2024〜26年度は赤字が続く見通しとなり、穴埋めとして「2027年度の支出を23年度比で1000億円削減する」計画を打ち出した。27日に発表された新中期計画でも、来年度以降の3年間で1050億円の支出削減を打ち出したと報道された。
2025年10月、ネット配信は放送と同じ「必須業務」に格上げされ、NHK ONEが始まった。だが必須化は、民放や新聞協会との調整の産物だった。総務省の議論では、メディアの多元性を損なわないよう配信の範囲は限定すべきとされた。放送番組と同じ内容を基本に、緊急度の高い情報と、番組に関連・補完する情報に限るという枠である。新聞協会は、受信料を財源に無料で大量のコンテンツを出すNHKと民間報道機関では、競争条件がアンフェアだと訴えていた。
NHKはこの枠に抵抗しなかった。2024〜26年度の経営計画は、必須業務化でNHKが果たすことを「大きく2点」と書いている。「放送経由でも、ネット経由でも、同等の、変わらない、同一の価値、同一の受益をもたらすこと」、そして「ネット経由でのみ受信している場合にも、放送経由で受信している場合と同様の費用負担をお願いすること」だ。ネットは放送を映す鏡であり、受信料を取るための器として設計された。
その結果、奇妙なことが起きた。必須化を前に、「政治マガジン」「事件記者取材note」「国際ニュースナビ」など数年間かけて積み上げてきたネットコンテンツを終了させたのだ。「びじゅチューン!」のYouTube展開もやめてしまった。ネットを放送と同格に格上げしたはずが、ネット上のNHKはかえって縮み放送の補足になった。ネットは放送と対等ではなく、主従の従と定義された。上層部は結局ネットを軽視しているのではないか。そうした見方は、NHKの内部からも聞こえていた。
NHK ONE、1年目の通信簿
その帰結が、開始から1年の数字に表れている。21日の会見で示された契約確認済みのアカウントは、9月末で約456万件。前身のNHKプラスの登録者668万件には遠く及ばない。開始当日には認証メールが届かない不具合が起き、旧サービスの利用者にも再登録と受信契約の紐づけを求めた手続きの煩雑さが、出足をくじいた。
より深刻なのは、テレビを持たない人がどれだけ加わったかだ。開始から今年8月までにネットのみで新たに契約したのは、本人の申告ベースで約1万3000件。受信契約全体の0.03%にすぎない。会長は「目標ペースより少し遅い」と認めつつ、受信料制度が「限界だとは考えておらず」と述べた。
会見では、NHK ONEに「教養」のサイトを開いたことも発表された。だが中身は、「歴史探偵」や「ダーウィンが来た!」などの過去番組を5〜15分に切り出したクリップだ。契約者が良質な過去番組に触れられるのはよいことだが、ネットのために作ったものではない。テレビと接点のない若い世代を引き寄せる力になるとは考えにくい。
会長が変わるたびに、方針が変わる
27日の経営計画案は、「公共メディアプラットフォーム」への転換を掲げた。会長は会見で「これまでNHKは、『公共メディア』として」役割を担ってきたと語った。
だが、この言葉には曲折がある。上田良一会長の時代に「公共放送から公共メディアへ」が掲げられ、前田晃伸会長もその路線を継いだ。ところが稲葉延雄会長のもとでまとめた2024〜26年度計画では、表記は「公共放送(メディア)」に後退した。一度引っ込めた言葉を、何事もなかったかのように「これまでも公共メディアだった」と語る。なぜ下ろし、なぜ再び掲げるのか、説明はない。NHK ONEを中心にするとまで言う。ネットを放送に従属させておいて。計画案は「外部のさまざまなサービスも活用」するともうたうが、YouTubeから番組を引き揚げたのは、わずか1年前のことだ。
8Kも同じだ。2018年に世界初の8K放送を始め、2022年には「再編後も8Kは継続する」と明言した。だが視聴できる世帯はごくわずかで、総務省の有識者会議は2029年度に打ち上げる新しい衛星に8K用の中継器を載せない方針を示している。それでも今回の計画案は、8Kを含む衛星放送の改廃を決めなかった。計画の最終年度に8Kは電波の行き場を失うのに、3か年の計画で結論を出さない。しかもNHKのBS番組は、地上波でも放送されたものを除いてNHK ONEで配信されていない。BSを畳めば、番組はネットに移るのではなく、ただ消える。BBC ThreeやBBC Scotlandが電波を降りてもiPlayerで見られるのとは、正反対だ。
営業もそうだ。NHKは2023年、法人に委託した戸別訪問を廃止し、「新たな営業アプローチ」に転換した。前田体制で決めた方針である。それが今年9月、外部2社への委託で訪問を再開し、大阪、兵庫から東京、埼玉、愛知へと広がっている。会長は「新たな営業アプローチ」の一つであり、「かつての訪問主体の営業活動に戻ることはありません」と強調する。だが、いったん廃止した法人委託を復活させたことに変わりはない。
ひとつひとつは筋が通ってようで、並べてみるとどこへ向かっているのかが見えない。BBCのトップも交代を重ねてきたが、2007年のiPlayer開始から、2015年の「インターネット・ファースト」、2022年の「デジタルファースト」まで、方向は一度も変わっていない。
なぜ「ゴール」を語れないのか
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