国民のために新聞とNHKは協力すべきだし、歩み寄るなら新聞の側だと思うが、そんなことを新聞側は絶対にしないと知っている

朝日の編集委員が新聞とNHKとの「共闘」を問いかけた
9月19日の朝日新聞デジタルに、編集委員・田玉恵美氏のコラムが載った。見出しは「NHKのウェブニュース、閲覧回数が急落 新聞・民放と共闘の道は」。
コラムはまず、首相官邸の広報戦略の話から入る。内閣広報室は来年度予算で、今の10倍を超える72億円を要求した。政府から国民へ、動画で直接発信する態勢を強めるためだという。政府発の一方的な情報が増えていけば、メディアの真価が問われる。そう書いたうえで、田玉氏は「先行きを考えさせられる数字」を示す。
NHKの非公表の局内資料からPV数を暴露しているが、記事の有料部分なのでここでは伏せる。ただすでにネットで「9分の1に急減」したことは知れ渡っている。
これまでフリーアクセスだったのを受信料契約者に絞ったのだから当然ではある。それより私が驚いたのは、田玉氏が新聞・民放とNHKの「共闘」を文字にしたことだ。新聞業界の中から、こういう問いが出てきたのは初めてではないか。
NHK ONEで、国民が見られるニュースは大きく減った
2025年10月、改正放送法の施行に合わせてNHKのネット配信は「必須業務」になり、新サービス「NHK ONE」が始まった。ネットがようやく放送と同じ本来業務になった。進展のように見えて実態は後退だった。
ニュースを読もうとすると受信契約の確認を求められる。検索やSNSからNHKの記事を開いても、手続きの画面が出てくる。その先へ進む人は少ない。契約者でも面倒になる。デバイスごとに求められるので私もMacでしか登録していない。
NHK ONEスタート前に、評価の高かった数々の特別な報道サイトが次々に閉じられた。放送していないコンテンツはネットで出してはいけない、となったからだ。その様子はまるでギロチン刑のようだった。
さらにNHK ONEが始まってすぐ、ニュースが1週間で見られなくなる問題を取り上げて「オールドメディアはつぶしあって共倒れする」と書いた。
このように心配していたことが、数字になって出てきたわけだ。実際に、国民が得られるニュースは減った。
NHKは、NHK ONEのアカウント数だけ示している。旧NHKプラスは2025年9月末で約668万件あった。NHK ONEで受信契約の確認を終えたアカウントは、2026年3月末で362万件、9月の会長会見の時点で約447万件。元々あったアカウント数に達してもいないのが実態だ。
なぜこうなったのか:新聞協会の圧力
NHKがわざわざ使いにくい仕組みにした理由ははっきりしている。新聞業界の強い圧力だ。
日本新聞協会は、NHKのネット展開に一貫して厳しい姿勢をとってきた。2023年の総務省有識者会議ではおそるべき政治力を発揮し、ネット展開を厳しく縛ってきた。

改正放送法には、民間事業者との「公正な競争の確保」に支障が出ないことが条件として盛り込まれた。NHKは番組関連情報を配信するにあたり、業務規程を定め、競争への影響を評価する義務を負った。
NHK ONEが始まった後も、新聞協会の姿勢は変わらない。NHK ONEスタート前から始まった「日本放送協会の番組関連情報配信業務の競争評価に関する検証」を傍聴したが、新聞協会からのクレームは常軌を逸したヒステリックなものと感じた。「1週間を過ぎてもニュースが残っている!」というのが言い分だが、新聞業界が国民の利益をまったく考慮しないことがよくわかった。
それだけに、田玉氏のコラムに機能縮小の背景に日本新聞協会の強い反発があったと書かれていることに2つの意味で驚いた。今さら新聞の側から何を言っているのか。そして、こんなことを書いて田玉氏は睨まれないのか。
地方紙から、いよいよ危うくなる
さて、NHKのニュースは新聞協会の意図通り抑え込まれたことはよーくわかったが、新聞はそれで救われたのだろうか。
そうはなっていない。新聞の発行部数は減り続け、特に地方紙は厳しい。部数と広告の両方が細るなかで、デジタル化で活路を開けている地方紙はごく一部だ。そしてNHK ONEが縮小したから新聞のアクセスが増えたという話は聞こえてこない。
もともと、関係ないからだ。
そもそも多くの新聞社のデジタル戦略は、記事の冒頭を数行だけ見せ、その先を有料の壁(ペイウォール)でふさぐ形をとっている。だが読者は、壁に当たればたいてい引き返す。数行だけでは「その先を読みたい」と思うはずがないからだ。
NHKは抑え込むのに、無料で読めるYahoo!ニュースにはどんどん記事を転載する。ささやかな広告収入が入るからだ。公正取引委員会は2023年の報告書で、ニュースポータルが払う配信料が不当に低い可能性を指摘した。それでも新聞はYahoo!への記事転載をやめない。目先の金が入るからで、先々自分達が痩せ細るだけなのは見ようとしない。
つまり新聞はNHKにも自分たちと同じ「壁」を作らせたのだ。NHK ONEの受信契約確認は、構造としてはペイウォールそのものだ。そして結果も新聞と同じだった。読者は去った。NHKに自分達と同じことを強いて、一緒にネット空間から消えつつある。
NHKから去った読者は新聞の有料会員にはならない。いや、会員が増えたと言うならその根拠を新聞協会は示してほしい。読者はYahoo!やYouTube、SNSへ流れただけだろう。NHKを弱らせても新聞は強くならない。日本の報道全体が細っただけだ。新聞協会は、NHKの首を絞めたら自分達も息苦しくなったことに気づいてほしい。
提案:NHKを開放させ、リンクで巨大な報道ネットワークをつくる
では、どうすればいいのか。田玉氏の言う「共闘」を具現化する時だ。
NHKのストレートニュースは誰でも自由に読める状態に戻す。そのうえで、NHKの記事から地元の新聞の詳しい記事へリンクを張ってもらう。
たとえばニュースの速報はNHKで読み、その地域の背景や続報は地元紙で深く読む。こういう役割分担ができれば、全国の新聞とNHKが結びついた、巨大な報道ネットワークになる。
ここで効いてくるのが、NHKが広告を載せていないことだ。Yahoo!に記事を出せば、広告収入はYahoo!が取り新聞はその雀の涙の分前を得る。だがNHKからリンクで読者が来れば、その読者は新聞社のサイトで記事を読み、広告も有料会員への誘導も新聞社に残る。広告収入を取ってはいけないNHKは新聞の広告収入を持っていかない、唯一の大規模な送客元になりうる。Yahoo!への記事提供はやめた方が得なのだ。
これは夢物語ではない。英国のBBCは地方紙と組んで「Local News Partnerships」を運営している。受信料を財源に地方議会などを取材する記者を雇い、地方紙に配置する「Local Democracy Reporting Service」もある。公共放送が地方紙を支える仕組みは、すでに海外で動いている。
歩み寄れるのは新聞だけ。そして新聞は絶対にそれをしない
国民のために、新聞とNHKは協力すべきだ。そして協力を始めるには、新聞が圧力をやめるしかない。NHKからは動けない。歩み寄れるのは新聞の側だけなのだ。
だが、私はそれが起きないことを知っている。新聞協会という業界団体の意思決定では、そんな判断はできない。全国紙と地方紙では利害が違い、合意はいちばん保守的なところに落ち着く。自分たちがNHKに求めてきたことを取り下げる判断は、組織としてできないだろう。田玉氏のコラムは貴重な問いかけだが、それが業界の方針を変えるとは思えない。
その先に待つのは、たぶんこういう結末だ。新聞は地方紙から順に、業界として崩れていく。NHKはネットの世界で存在意義を失い、「何のための受信料か」と問われ続け力を失う。
ニュースは国民に必要なものだ。それなのに、報道を担う側が自分たちで打開策を見つけられない。その結果、損なわれるのは国民の知る権利だ。
そして、報道機関が弱ったところに入ってくるのが、72億円をかけた政府の直接発信だ。田玉氏のコラムの書き出しは、そういう意味で結論の予告でもあった。
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