映画「開戦前夜」の公開前夜、その問題の本質は映画よりNHKスペシャルの構成にある

7月31日公開の映画「開戦前夜」に対する訴訟についてです
境 治 2026.08.05
サポートメンバー限定

※この記事に関連したPodcastを配信しています。

公開前夜の異例の事態

映画「開戦前夜」が7月31日から公開された。好きな監督の一人である石井裕也作品であることも含め、劇場に行くことを楽しみにしている。
だが公開前に、この作品をめぐる状況は異例の展開を見せている。史実を元にしたフィクションだが、登場人物のモデルの遺族が映画に対して訴訟を起こしているのだ。
7月22日、東京地裁で第3回口頭弁論が開かれ、原告側は映画の公開差し止めを求める追加請求を申し立てた。原告は弁論後の会見で、体力と命の続く限り闘い続けると宣言した。その前週には、都内で予定されていたプレミア上映会が中止に追い込まれている。一般試写会の際に原告側が会場付近で街宣活動を行ったことを受けての判断だった。

映画製作委員会のX投稿

映画製作委員会のX投稿

劇場公開の直前にここまでの事態に至った映画は、近年記憶にない。だが騒動の経緯を追えば追うほど、焦点は映画そのものから離れていく。そもそもの出発点である、昨年夏のNHKスペシャルに立ち返る必要がある。

事実経過の整理

2025年8月16日と17日、NHKスペシャル「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」が放送された。太平洋戦争開戦前、日米開戦のシミュレーションを行い「日本必敗」の結論を導き出していた首相直属の「総力戦研究所」を題材に、ドキュメンタリーとドラマを組み合わせた構成の番組だった。
これに対し、総力戦研究所の初代所長・飯村穣陸軍中将の孫で元駐フランス大使の飯村豊氏(79)が、番組のドラマパートで祖父の人物像が史実と異なる形で不当に歪められ、名誉を毀損されたとして、12月24日、NHKや制作会社、脚本・演出を担当した石井裕也監督らを相手取り、550万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。
飯村氏は自分たちの主張を訴えるサイトを立ち上げている。

NHK井上会長宛の公開所管も掲載されており、読むと胸が痛む。NHKと対話しようとしてもかわされてきた経緯がよくわかる。

サイト「総力戦研究所2.0」井上NHK会長への公開書簡より

サイト「総力戦研究所2.0」井上NHK会長への公開書簡より

映画「開戦前夜」(石井裕也監督、池松壮亮主演)は、この番組のドラマパートに約40分の未公開シーン・追加映像を加えて劇場作品としたものだ。係争中の番組を原案とする映画が、判決を待たずに公開される前代未聞の事態だ。
問題を孕んだまま映画が公開される状況は、決めたことだから猛進しているようにも見える。それこそが負けるとわかっている戦争を止められなかった当時の日本の姿と重なるのは気のせいだろうか。

放送時に感じた違和感

私は昨年8月の放送をリアルタイムで見ている。そして正直に言えば、その時点で所長の描き方には引っかかりを覚えていた。

この記事はサポートメンバー限定です

続きは、2094文字あります。

下記からメールアドレスを入力し、サポートメンバー登録することで読むことができます

登録する

すでに登録された方はこちら

提携媒体・コラボ実績

サポートメンバー限定
7月29日座談会「コンテンツ産業への公的支援、いかがなものか?」と議論...
サポートメンバー限定
2026年夏、ルーカスとスピルバーグを、YouTuberが打ち破った
サポートメンバー限定
『トイストーリー5』最速50億円に導いた、配信サービスという「予習イン...
サポートメンバー限定
ついにニュースさえ見なくなり、自分自身のテレビ離れがいよいよ進んだ件に...
サポートメンバー限定
7月29日MediaBorder座談会「コンテンツ産業への公的支援、い...
サポートメンバー限定
フジテレビはあの件を反省するあまり、あの件以上の間違いをこの件でしでか...
サポートメンバー限定
日本映画の新たな仕組みを提案する、映画プロデューサー川村岬氏の現在地
サポートメンバー限定
稼いでいる大企業に補助金、稼げない国立映画アーカイブはクラファン――こ...