映画への投資を誰にでも〜フィリップ・キャピタル証券が挑む映画デジタル証券による「投資の民主化」〜

映画製作の新しいファイナンスについて取材しました。
境 治 2026.09.04
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映画製作費の新しい資金調達の動きが活発化している。これまでも、川村岬氏のファンドへの取り組みや「HIDARI」をファイナンスで支えるクエストリー社などを取材し、記事にしてきた。
もう一つ気になっていたのが、昨年の映画「宝島」での証券化の試みだ。
証券会社が映画をセキュリティトークンを活用してデジタル証券化するという前例のない試みは、業界内外から注目を集めた。取り組んだのは、フィリップ・キャピタル証券だ。今回、同社のオンライン事業本部長、ライリー・ウィリアム氏と、マルチプロダクツ部副部長の網岡佑祐氏に、その背景と課題についてお聞きする機会を得たので記事として紹介したい。

「投資の民主化」を掲げ、映画を最初の舞台に選んだ理由

今回の映画制作費の証券化は、以前から行なっていたのだろうか。
「いえ、我々も今回が初めての取り組みでした」
背景にあるのは、現社長・永堀真氏の問題意識だ。
「社長は就任前から、エンターテインメントを含む様々な分野において、一般の人が自由に投資という形で参加できる世界を作りたい、という考えを持っていました」とライリー氏は語る。

これまで証券化と言えば、機関投資家を対象とした不動産など、大規模な案件が主流だった。それを個人投資家にも開放しようというのが、永堀社長の言う「投資の民主化」だ。その第一弾として選ばれたのが映画であった。
「映画は、一般の方が投資する機会がなかなかないものです。映画がお好きな方に一口10万円から参加できるようにしたら面白いのではないかと考えました。購入いただいた方が映画を応援してくださることで、宣伝効果も期待できます」
映画に特化しているわけではなく、飲食店や新しい形のビジネスなど、様々な対象に個人投資家の資本が入るようになれば、世の中はガラッと変わっていくのではないかとも述べる。

投資を、売買可能にするセキュリティトークン

セキュリティ・トークン(ST)とは、どういうものなのだろうか。
「ブロックチェーンなどの分散台帳技術を活用して発行・管理されるデジタル形式の有価証券のことです。従来の有価証券と同様の法的な権利をもちながら、分散台帳技術を応用することで、より効率的な発行や流通、管理を可能にしています。」
今回の映画STでは、その売買は行われていないが、「そういったセカンダリー市場を作ることも将来的にはできる」とライリー氏は言う。
「宝島」の具体的なスキームはどのようなものだったのだろうか。
「製作委員会の持分を対象としてST化(証券化)を行った形です。フィリップ・キャピタル証券が引受・販売を担当し、一口10万円という単位で個人投資家へ販売しました」
購入者にとっては、実質的に製作委員会の一員として作品づくりに関わっているような感覚が得られる。
「他の製作委員会のメンバーと同様に、利益に対して分配される形になります。分配があれば、その全額を口数で均等に割って投資家の皆様にお返しします」とライリー氏は説明する。

フィリップ証券 オンライン事業本部長 ライリー・ウィリアム氏

フィリップ証券 オンライン事業本部長 ライリー・ウィリアム氏

「映画の興行成績等によっては、出資した10万円を下回るリターンになることもある。映画の製作および興行を出資対象とする金融商品となります。」
東映のIRによれば宝島の興行収入は6億8千万円ほど(2025年12月時点)。ストリーミングやIP販売などの収益を加えても「投資した分を下回る金額になると思われる」と、ライリー氏は残念そうに語る。一方で、投資家向けには金銭的リターン以外の付加価値も提供された。公開前のポスターやチラシのプレゼント、試写会への招待、そして大口購入された投資家の名前はエンドロールに掲載された。「まさに製作委員会のメンバーの一人として参加していただいています」とライリー氏は言う。

映画業界の「不透明さ」に直面した初めての経験

初めての取り組みについて、ライリー氏は率直に振り返る。
「映画業界における知識や経験の面で、我々自身まだ学びの途上にあったことを、今回の取り組みを通して改めて実感いたしました。」
特に注目したのは、作品の成否にかかわらず費用を先に回収する”広告宣伝費のトップオフ”。リスクを抑えてプロモーションを最大化するために長年培われてきた業界の知恵だと理解した。
「こうした習慣の合理性を認めつつも、回収基準や投資対効果をより透明性を高めていく。そうしたアップデートを重ねることで、投資家にとっても事業者にとっても、より納得感の高いスキームへ進化させていきたい」とライリー氏は語る。
こうした業界慣行は、今後のスキームにどう影響するのだろうか。
「個人投資家は守られなければならない存在です。例えば分配金を個人投資家向けに優先するような仕組みが必要だと考えています」
具体的には、広告宣伝費が優先して控除される構造であるならば、個人投資家側の元本回収(たとえばその半分程度)についても優先順位を引き上げるなど、より持続可能な分配モデルを案件ごとに模索しているとのことだ。
「大手企業と同じリスクを個人投資家が取るのは難しい。そうでないと、このスキーム自体が広がらないと思っています」
また製作委員会方式ではメンバー全員を説得しなければならないため、合意形成は容易ではないという。

「宝島」で成立した背景と、制作委員会方式の限界

では、なぜ『宝島』の案件は実現に至ったのだろうか。

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