『トイストーリー5』最速50億円に導いた、配信サービスという「予習インフラ」

映画のヒットを配信が左右する時代になっています
境 治 2026.07.22
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11日で50億円、その快走の裏で

『トイ・ストーリー5』の勢いが止まらない。

7月3日の公開から11日目でディズニー作品史上最速の興収50億円を突破。初週末3日間の24億1510万円は実写も含めた洋画史上No.1のオープニングであり、さらに驚くべきは2週目の粘りだ。週末興収16億8304万円は初週末比およそ70%。通常の洋画大作なら2週目に4〜5割落ちるところ、わずか3割の減少で踏みとどまった。『アナと雪の女王2』の2週目記録すら塗り替え、10日間で動員337万人。宣伝担当によれば客席の中心は10代〜20代だという。
この快走の背景にひとつ、あまり語られていない要素があると思う。

配信は続編興行の「予習インフラ」になった

シリーズ映画最大の参入障壁は、言うまでもなく「過去作を観ていない」ことだ。5作目ともなれば、新規客の裾野は狭まっていってもおかしくない。ところが『トイ・ストーリー5』の客層はファミリーに加えて10代〜20代が中心だという。『トイ・ストーリー4』から7年。当時小学生だった子どもたちが、劇場の記憶ではなく、ディズニープラスでシリーズを反芻しながら育った世代として、いま劇場に戻ってきているのではないか。
ディズニーはこの構造に自覚的だ。『トイ・ストーリー5』の公開に合わせ、シリーズ過去作のディズニープラス配信を宣伝とセットで訴求している。定額見放題がキャッチアップコストをほぼゼロにし、続編公開のたびに顧客基盤を再生産する。配信は劇場の敵ではなく、続編興行の「予習インフラ」として機能し始めている。
今年の興行を見渡せば、傍証はいくらでも見つかる。上半期首位の『ズートピア2』(155.7億円)は前作がディズニープラスの看板作品であり続けた。『名探偵コナン』が4年連続100億円という異常な安定性を保てるのも、膨大な過去作アーカイブに配信でいつでも合流できることと無関係ではあるまい。木村拓哉主演『教場 Requiem』もドラマ版・映画版を配信で追える環境が整っていた。「シリーズものが強い」という今年の興行の構図は、「配信が続編の顧客を毎年つくり直している」構図だと読み替えられるのではないか。
2024年の映画『ラストマイル』公開時には同じスタッフによるドラマ「アンナチュラル」「MIU404」と”シェアードユニバース”と謳われ、映画の中にそれぞれのドラマの登場人物たちが出てきた。この時も2作のドラマが各配信サービスで一斉に配信されていた。これも配信が映画をヒットに導いたと私は捉えていた。

逆流も始まった ― 『超かぐや姫!』という事件

さらに今年は、「予習」にとどまらない現象まで起きた。『超かぐや姫!』である。
わずか19館・1週間限定で始まった上映が、Netflix配信をきっかけに口コミが爆発。その熱量が劇場動員へと逆流し、4ヶ月のロングランで興収27億円。9月には復活上映まで決まった。「劇場で公開し、終わったら配信へ」という業界の一方通行の常識に対し、「配信で認知し、劇場で体験する」という逆向きの導線が、今年、実際に27億円という数字を作ってしまった。
この時のことは記事にしている。

かつて業界を覆っていた「配信が客を奪う」というカニバリゼーション論はもはや迷信と言っていい。少なくともイベント性の高い作品については、配信と劇場は相互送客の関係にある。

ただし、配信は必要条件であって十分条件ではない

とはいえ、この仮説には反証もきちんと置いておきたい。
今年上半期、TBS日曜劇場からの劇場版『ラストマン』、テレビ朝日の人気シリーズ完結編『緊急取調室 THE FINAL』が、いずれも興収20億円に届かず沈んだ。どちらもドラマ本編は配信で十分に「予習」できたはずの作品である。配信棚に過去作が並んでいるだけでは、観客は劇場に来ない。
つまり配信が興行を押し上げるのは、「劇場で観ること自体がイベントになるIP」に限られる可能性が高い。ピクサーの映像体験、コナンの祭り性。テレビドラマを映画化しただけの劇場版は、皮肉にも「配信で観れば十分」という判断をされてしまう。配信はIPの地力を増幅する装置であって、地力そのものを生む装置ではない――ここは放送局の映画事業を考えるうえでも重要な分岐点だと思う。多少視聴率がいい程度のドラマでは、映画館に人を呼び込めないのだ。

数字で規模感を掴む ― ディズニープラス国内推計会員数の意味

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