NHK ONEでは、知る権利に賞味期限ができたらしい

過去の記事が読めないなんて知る権利を損なっていませんか?
境 治 2025.10.31
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ニュースがなかったことにされているNHK ONE

NHK ONEがスタートしてニュースが様々に変わった。中でも奇妙なのが、「ニュース記事は1週間で消えてしまう」というものだ。せっかく書いた記事が放送された後、1週間で消されるという記者たちの嘆きが漏れ聞こえてきたのだ。

この噂が本当かどうか確めたいが、消えてしまったニュースの確認はなかなか難しい。そこで、NHK ONEでいろんな言葉を検索してみた。

するとまず気づくのが、どうやら2020年以前のニュースが載っていないらしいことだ。NHK ONEのニュースサイトは検索結果を「古い順」で表示できるのでわかりやすい。

例えば「トランプ大統領」で検索すると一番古いのは2020年2月の記事だった。「オバマ大統領」で検索すると4つしか出てこず、2020年5月の「オバマ前大統領」の記事が一番古い。在任中の記事は出てこない。

NHK ONEでの「オバマ大統領」の検索結果

NHK ONEでの「オバマ大統領」の検索結果

番組は58出てくるが、クローズアップ現代などの、番組紹介文で大まかなことしか書かれていない。これでは、過去のことがきちんとわからない。

私が気になる事をいくつか調べてみた。「ネットフリックス」で検索すると、なんとたったの9件。

NHK ONEでの「ネットフリックス」の検索結果

NHK ONEでの「ネットフリックス」の検索結果

2020年のニュースが3件と2022年が1件、その次はいきなり今年1月に飛ぶ。今年8月の「WBC独占配信」の記事はあったが、去年12月の「国内会員数1000万突破」はなかったことになっている。

「ネット広告の闇」を検索するとニュースで1件、番組で4件。これにはショックを受けた。

クローズアップ現代で2010年代から数年にわたってシリーズで番組化された企画で、社会問題としてのネット広告の取材を多角的に行っていた。広告業界に警鐘を鳴らす貴重なシリーズとして、各業界団体の人々から賞賛の声が聞こえていた。番組の内容を丸々再録したものが記事としてまとまって読めたので、私は何度も目を通した。

そのシリーズが丸ごと消えているのだ。これは日本の広告業界にとって、いや社会にとって大きな損失だ。ネット広告の問題を後から追えなくなってしまった。NHKは何をしているのか?せっかくの社会的価値の高い取材を消してしまうとは。私たちの知る権利を奪い去る行為だ。

NHKは国民より業界団体を大事にしている

なぜこうなったかについてNHKに質問をするつもりだが、理由は予想がつく。おそらく日本新聞協会などの業界団体に気を配ったからだろう。NHKは受信料契約している国民より、業界団体の方を大事にしているのだ。その結果、貴重なニュースを消して私たちの知る権利を侵害してしまった。

NHKがネット業務も「必須業務化」つまり放送と同じように力をいれるための放送法改正にあたっては、総務省の有識者会議で新聞協会と民放連に散々難癖をつけられた。

必須業務化によって、NHKが潤沢なニュースをテキストでネットに掲載すると新聞のネット版に皺寄せが行き「民業圧迫」になる。だから必須業務化するなら「番組関連情報」つまり放送した内容をネットに掲載するにとどめよ、ということになった。

このロジックは奇妙だ。放送と同じくネットも必須業務にするのに、ネットに出す情報は放送に準拠せよというのだ。放送もネットもそれぞれ、独自に頑張るのが「必須業務化」ではないのか。

だが「番組関連情報」にネットでの活動を限定させられた。どうして新聞業界の言うことをこんなに聞くのかさっぱりわからなかった。そもそも新聞のネット版が振るわないのはネットを理解しないやり方がまずいからで、NHKを縛る前にやることをやってから言ってほしい。

新聞協会に思い切り譲歩した形で放送法改正の議論は進み、放送していない内容は掲載してはならない、と決まった。これにより、遡ってその時点ですでに展開していたネット独自のニュースサイトが一斉に潰された。昨年、2024年春のことで、そのことは当時書いた。

次々にサイトが閉ざされる様がギロチンのように思えた。

何でもかんでも閉じてしまう、ルールが見えない必須業務化

だからと言って「ネット広告の闇」シリーズを消す必要はなかったはずだ。放送された内容をテキスト化したものが中心だったから「番組関連情報」のはずだ。ましてや放送されたニュースを次々に消すのは理解できない。オバマ大統領の在任中の記事が読めないのはおかしい。「ネットフリックス国内1000万」という事実が、NHK ONEでは存在しないことになっている。

自分で記憶している情報はまだいいが、本当に1週間で次々消えるのなら、後からでも知ることができたはずのニュースを知る機会が失われる。これのどこが公共放送なのだろう。ニュースを消すなら、受信料も返してもらいたい。私たちの受信料で取材して得た情報のはずだ。ストックしていつでも見られるようにすべきだろう。契約者を侮っているとしか思えない。

そして、新聞協会のご機嫌を伺うからだとしても、1週間で消す理由はなんなのか。「番組関連情報」はネットに載せていいのに、なぜ賞味期限を設けるのか。

そこに何か理由やルールがあるのなら、NHKは国民に説明するべきだ。薄いニュースサイトを提供してるのに「ネットだけの利用者も受信料を取りますよ」などとよく言えたものだ。少なくとも「ニュースはどんどん消しますのでご了承くださいね」と説明するべきだ。

だったら新聞のデジタル版を契約します、と言われてしまうだろう。そのほうが新聞協会が喜ぶだろうから、NHKとしてはそれでいいのかもしれないが、国民の信頼は失われるだけだ。

NHKは公共放送から公共メディアになれなかった

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