あなたがムカついてるネット広告は、あなたの会社の広告かもしれない〜ネット広告は経営問題だ〜

フジテレビのCMを停止したのは企業のコンプライアンスの問題だった
10月に入り、ようやくフジテレビの番組に大手企業のCMが戻ってきつつあるようだ。思い返すと、1月17日の大顰蹙を買った「紙芝居会見」以降、ほんの数日間で企業が一斉にCMを停止したのは驚きだった。名だたる企業のCMがACジャパンのCMに差し替えられ、フジテレビだけ別の国のテレビ局のようだった。
理由はどう見ても、タレントの問題事案を放置しているようなメディアにCMを出稿していては、企業のコンプライアンス上の問題になるからだ。1月27日のやり直し会見でもCMは戻らず、取締役陣を一新し新たな企業改革を進める姿勢が認められ、半年以上経ってやっと大手企業はCM出稿を戻す判断をした。その間、フジテレビが失った売り上げが何百億円かは、上期決算の発表時に示されるだろう。
メディアは信頼を失うと、企業からも信頼されず広告出稿をしてもらえない。当たり前のことだが、これほどの大きな出来事もなかった。しかも80年代からテレビの黄金時代の主役だったフジテレビでも、一旦信頼を失うと立ち直るのは簡単ではないとわかった。本当の信頼を回復するのは、これからだろう。まだまだ道のりは続く。
ネット広告は、投資詐欺やMFAサイトで犯罪の温床にもなっている
一方、ネットでの広告はどうだろう。私たちはいまや、テレビや新聞よりネットにもっとも接触している。ほとんどの場合広告が表示されるが、そこにはルールもモラルもないように感じられる。
はっきり問題なのは、詐欺広告だ。著名人の名を勝手に借りた投資広告が跋扈し、被害額が数百億円にも登るという詐欺の入り口になった。これは明らかに犯罪だ。
また怪しいサイトもよく見かける。MFA(Made For Advertising)サイトと呼ばれる、ニュースサイトのふりをしたものだ。一見、記事のようなものが写真や動画と共に掲載されているが、中身はでっちあげで画像や動画もフェイク。派手な記事と共に、過剰な広告を置いている。

MFAサイトはインプレッションやクリックによって、広告収入を荒稼ぎする。運営の多くは海外の怪しい集団で、生成AIの進化で言語の壁も乗り越えおかしな記事を載せている。これらのネット広告は国内外の犯罪者の資金源になっているのだ。
性的広告や不愉快な広告も蔓延している
このところ、子どもも見るような生活情報サイトに性的な広告が表示されて問題になった。性的な広告は切り分けられるべきで、ゾーニングが必要との声もある。
また私たちは、ネットで記事やコンテンツを見る際にルール無用の広告の洪水に苛まれている。表示さえすればいいのだとばかりに、広告が出てくる。私が「通せんぼ広告」と呼ぶ、記事を読む前に画面いっぱいに表示される広告は、いまや当たり前になってしまった。立派な新聞社や出版社のネットメディアでも普通に行われる形式だ。だが新聞や雑誌のデジタル版は儲かっていない。不快な広告を避けてページから離れたり広告ブロックを入れる人も増えている。過剰な広告は、自分の首を絞める行為だ。
企業経営層がネット広告にはコンプライアンス上の問題があると認識すべき
こうした問題の多いネット広告には、大手企業のブランド名も当たり前に出てくる。そこには、矛盾が生じていないだろうか。
フジテレビの問題が発覚したら、大手企業はこぞってCMを撤退した。それなのに、問題の多いネット広告からどうして大手企業は撤退しないのか。それは、気づいていないからだ。
コンプライアンス上の問題は、実はすでにネット広告でも発生している。詐欺広告の隣に健全なはずの企業の広告も表示される。性的広告が載ったページにも大手企業の広告が並ぶ。読者を不快にする「通せんぼ広告」に大手企業の名前が掲載されている。立派な企業がネット広告で、大勢の人々に不愉快を振り撒き、不適切な表示に加担しているのだ。そのことに企業は気づいていない。
広告担当者はわかっているかもしれない。だが限られた予算で目先の効果を求められる中で、インプレッション数やクリック数を獲得できるなら目をつぶるのではないか。たとえおかしな集団によるMFAサイトでも、担当者からすると数が獲得できればそれでいいとさえ思うだろう。
そうであるなら、ネット広告の問題は経営層が関与するしかない。自分の会社のコンプライアンス上の問題であると経営層が認識し、広告担当部門に目先の数よりブランドが大事だとはっきり指示すべきなのだ。
総務省の広告主向けネット広告ガイダンスに経営層は注目を
今年6月、総務省が「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に 向けた広告主等向けガイダンス」を発表した。
※「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に 向けた広告主等向けガイダンス」掲載ページ
ネット広告の問題点と対処についてまとめられた文書だが、重要なのは「広告主等向け」と銘打っていることだ。さらに目次に目を通すと「経営層が対策に関与することの必要性について」という項目もある。ここで長々と書いてきたように、ネット広告の問題には経営層が関与すべきであり、そうしないと解決しないとの考え方でまとめられている。
総務省と有識者たちがその点を世の中に訴えていることを受け止めてもらいたい。
もちろん受け止めてほしいのは経営層だが、それだけでなくネットに接する人々に、それくらい重大な問題なのだと感じ取ってもらいたい。広告に権限がある経営層が対策に関与しないと解決できないほど、ネット広告は深刻な社会問題になっているのだ。ぜひ多くの皆さんに関心を持ってもらい、過度に不適切な広告があったら周囲の人々にも知らせたり、掲載しているメディアやその広告を出稿している企業に、注意してもらってもいいと思う。
社会全体で解決していかないと根絶できない。ネット広告の問題は誰にとっても関係ある課題だ。
10月31日、総務省のガイダンスを題材にしたセミナー開催
ここからは告知です。10月31日にここで取り上げた総務省ガイダンスを題材に私がモデレーターを務めるセミナーを開催します。登壇者は、こちらの方々です。
株式会社電通デジタル マネージャー馬籠太郎氏
慶應義塾大学 准教授水谷瑛嗣郎氏
パナソニック コネクト株式会社 CMO山口有希子氏
馬籠氏は広告業界の内側から、ネット広告の問題を啓発してきた方です。水谷准教授は総務省の有識者会議のメンバーとして、ガイダンス策定にたずさわった研究者です。そして山口氏はJAA(日本アドバタイザーズ協会)デジタルメディア専門委員長として、総務省の会議でネット広告の課題について発表しています。
広告業界、研究者、広告主それぞれの視点でこの問題についてプレゼンし、ディスカッションしていただきます。非常に貴重な機会となりますのでぜひご参加ください。
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