選挙報道に悩む自分たちをさらけ出すメディアは信頼できる「選挙報道は変わるか~MBS報道の60日」
期待を裏切られた2025年の選挙報道
選挙報道について文句も期待も何度も書いてきた。昨年2024年の衆議院選では自民党と共にテレビがYouTubeに負けたと書いている。

今年の選挙ではテレビの選挙報道が変わると期待したが、大きな変化を感じなかった。政治的公平を気にし過ぎてはいけないと思っていたが、逆に特定の政党を叩くような報道は良くないとも書いた。特に参政党は、テレビが叩くことでマスコミに反感を持つ人の票を集めてしまったのではないか。参政党にテレビはうまく利用されてしまった。
東京在住の私としては、テレビ局が関東全域をエリアとするために、個別の選挙区の情報が足りていないことが気になった。1都6県の選挙区は追いきれないのが本音と思うが、それでも個別の選挙区の情報を出す努力をすべきだったと思う。選挙報道の原点は、どんな立候補者がいるかを知らせることのはずだからだ。
結局私は、今年の都議会選挙も参議院選挙も、YouTube、特にリハックに頼った。
なんだ、テレビの選挙報道はいらないじゃないか。いったいテレビ局は今回の選挙報道に、どう取り組んだのか。
自らの選挙報道を追うMBSのドキュメンタリー
と思っていたら関西のテレビ局、MBS毎日放送の選挙報道を振り返るドキュメンタリー番組がTVerで配信されていた。
「選挙報道は変わるか〜MBS報道の60日」というタイトル。これだよ、こういうのが見たかったよ。MBSでは今年の参議院選挙に向けて、従来とは違う方針、「選挙の事前報道に取り組む」ことを掲げた。「投票に役立つ選挙報道」を目標に、これまでの「量的公平性」に配慮して選挙期間中に消極的に報じてきた姿勢を改め、積極的に報道すること。
特に投開票日直前の金曜日は夕方の「よんちゃんTV」で3時間まるまる参議院選挙だけを取り上げることにしたのだ。
これこそ、私がテレビ局にやってほしかったことだ。「量的公平」にこだわらないことはもちろんだが、何より「投票に役立つ情報」がほしかった。報じる側の見解なんかいらない。平たい目で見た候補者や政党の「情報」が投票には何より役に立つ。判断するのは有権者だ。そのための材料を伝えてほしい。
MBSが立てた方針は、私が求めていたものと同じだった。
なぜMBSが方針を大きく変えたのか。昨年の兵庫県知事選挙で斎藤元彦氏が勝利し、パワハラ批判をしてきたマスメディアは「オールドメディア」呼ばわりされた。兵庫県もエリアであるMBSはまさにその現場で、苦い体験をしていた。斎藤氏の勝利が決まると、集まっていた支持者たちはテレビ局にNOを突きつけた。
「大手マスコミが言わないことがネットに出てるじゃないですか。マスコミは嘘ついてる」選挙報道に消極的だからこう言われてしまった。積極的にならないと信頼されない。そのことをMBSは痛感したのだ。
選挙報道に答えはない、という答え
斎藤知事について報じてきた解説委員の大八木友之氏は率直に反省するコラムを去年書いていて、私はたまたま目にしていた。
テレビ局の人がこれほど真摯に選挙報道を反省する文章を読んだことはない。私はMBSの「事前の選挙報道」を、このコラムに連なるものとして受け止めた。
大八木氏は番組にも登場し、公平が呪縛となり思考停止に至っていたと率直に話していた。
「量的公平」に代わるのは「質的公平」。だが何をどう扱えば質が公平になるのか。「量=秒数」というわかりやすい基準を失うと、わからなくなる。手探りで進むしかない。悩みながら報じていく同僚たちをカメラで追うのが「選挙報道は変わるか」だ。追われるのは同じ報道局員、つまり自分たち。自分で自分を追うドキュメンタリーだ。
テレビ局にカメラを向けるというと東海テレビの「さよならテレビ」を思い出す。だがあちらがどこか外側からシニカルにテレビ局にカメラを向けていたのに対し、「選挙報道は変わるか」は実直に自分に向けている。だからどうしても同僚を見つめる優しさも滲んでしまう。でもだからこそ、真摯で自省的でもあり、共感できる作り方になっている。
番組は、長年選挙報道に携わってきた「選挙統括編集長」である米澤飛鳥氏を中心に進む。「ストップウォッチを片手に候補者のVTRの分数を揃えてやってきたのを崩すとなると答えがなくて・・・」と、率直に語る。
「答えがなくて・・・」というのが、この番組の答えだ。最初から最後まで、答えはない。いろんなことで悩み、迷い、模索する姿を追い続けている。
やはり浮上したのが参政党だ。この新しい勢力をどう扱うか、考え、議論し、悩んで、答えはない。参政党が重要な存在になっているから取り上げたい米澤氏に対し、報道主幹は「台風の目になっていることだけで終わるのでなく、憲法草案を出していることなど情報提示すべきだ」と主張。大八木氏が、「それをプラスに取る人もいればマイナスに取る人もいる」と言うと、報道主幹は「それは自由でいいと思う。その材料さえ出さないでやっちゃうのはよくない。」と返した。
この議論に答えはない。答えはないが、こういう議論をした末に報じることがここでできる最善なのだ。
報道主幹がこう言う。「正直前のほうが楽やね。時間さえ計っておけば言い訳ができるんやから。時間を計らない分、質的公平って何やって考えなければいけない。」関西弁なので軽口に見えるかもしれないが、芯をつく言葉だ。
選挙報道に積極的に取り組む。楽ではない道に踏み出したMBSは今回、悩み続けた。最後に大八木氏も米澤氏も、結論を述べたのではなく、ここがわからなかった、という話をして終わった。
だから、私にはこの人たちが信頼できると感じた。何でも理解できているから答えはこうだと言う人は信頼できない。やってみたがわからなかったから次回も考えたいと言う人は信頼できる。
「嘘ついてる」と言われてしまったテレビ局は、「嘘はついてません」とただ反論しても仕方ない。本当のことを伝えている姿を見せ続けるしかないと思う。
報道は、リベラルからニュートラルへ向かうべき
東京に住む私は、MBSの開票日直前の「よんちゃんTV」を見ていない。実に残念だ。まさに私は、関東ローカルとしての各局に集中的な報道を望んでいた。直前の1週間は選挙で埋め尽くしてもらってもいいくらいだと思った。NHKは民放に比べると少し力を入れて「首都圏ネットワーク」で選挙を報じていたかもしれない。だが「直前に3時間」はなかった。私は本当にやってほしかった。
代わりに見たのは、7月12日の「報道特集」だった。
この番組の人たちは、メディアリテラシーが低いと思う。どういうことかを説明しよう。
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