10年でホントの黒船となったNetflixは日本のメディア産業を“開国”するか

WBCを会員以外が見る方法は「ない」と明言
9月4日、東京・成城の東宝スタジオで関係者向けのNetflix日本上陸10周年イベントが開催された。

2015年はNtflix日本法人代表だったグレッグ・ピーターズ氏が最初に登場し、流暢な日本語でスピーチした。奥方が日本人なのでペラペラなのだ。10年前、フジテレビの番組でインタビューした私としては感慨深い。いまは共同最高経営責任者、テッド・サランドスとともにトップの座にいるので大出世だ。
この日の夜のテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」では、この会場での豊島晋作キャスターによるグレッグへのインタビューが放送された。
その中から、WBC独占配信についてのやりとりを紹介しよう。
豊島:WBCの試合は会員しか見られないのか、他の配信方法も考えているのか
グレッグ:試合はネットフリックス会員だけに提供される それが複数の場所で追求してきたビジネスモデルだ
豊島:日本人は無料で試合を見ることに慣れている 有料会員だけが見るスポーツ中継は広がるか
グレッグ:それはよくわからない しかし高品質の体験を提供できるし今の会員を満足させられる
スポーツ紙の記事で、Netflixが重要な試合は無料で見られるようにするのではないか、との淡い期待を目にするが、そんなことはありえないと明言した形だ。そんなことあるはずないじゃんねえ。
さらに、無料じゃないと広がらないのではと聞かれて「わからない」と断言したのも面白いと感じた。
NetflixのWBC配信について皮算用をする人たちがいて、150億円を払っても150万人が会員になれば元が取れるし、前回のWBCは視聴率が何%だったからそのうち何人が見れば云々、と計算していた。たぶんNetflixはそんな計算はしていない。いくらなら元が取れるからいくらなら払っていい、なんて計算はしていないはずだ。そんな計算をしていたら作れないほどコンテンツにお金をかけてきているし、それが成功してきたから会員数は増えた。いいコンテンツを配信すれば会員が増える、という計算だけがあるのだ。
それにそもそも、「WBCは無料放送だったから野球ファンが増えた」と言うこと自体がおかしい。だって「地面師たち」の「もうええでしょう」は広がったから流行語大賞に入ったのだ。1000万世帯の会員数とは、「広がる」規模だ。有料でも広がるかという疑問には、もはや意味がない。有料サービスから流行語が生まれたのだから。大勢の人が見るし、もっと大勢の人が会員になって見るだろう。それ以上の皮算用は無意味なのだと思う。
10年経って、Netflxは日本のドラマ制作の黒船になった
話をイベントに戻そう。「クリエイターズ・スポットライト」と題したこのイベントは、10年間で日本コンテンツを制作したクリエイターたちに語り合ってもらうのが主旨だ。グレッグに続いて日本コンテンツ部門のバイスプレジデント・坂本和隆氏がスピーチした。

Netflixが日本で成長できたことを「金に物を言わせた結果」と言いがたる人がいるが、明確に誤りだと言っておきたい。前にも書いたが、血の滲むような努力を重ねてオリジナルコンテンツを作ってきたからだ。
Netflixには世界中から宝物のようなコンテンツが集まっている。「クイーンズ・ギャンビット」を見た時の驚きと感動は今も忘れない。
だが日本のコンテンツが日本での成長には欠かせなかった。絶対必要だった。「イカゲーム」だけではここまでにならないのだ。コンテンツの価値は万国共通である一方で、自国コンテンツがあるからこそ「私たちのサービス」になる。
この10年間、きっと何度も失敗し、それでも「何くそ!」と坂本氏らスタッフがそれを乗り越えてきたからこそ1000万を達成して10周年を迎えることができたのだ。
Netflixは日本のコンテンツ制作の文化を変えた。新しい考え方、今までとは違う作り方、より良い現場環境を日本に持ち込み作り上げた。だからあえて、Netflixはいま「黒船」になったと言いたい。10周年の節目で私たちが感じ取るべきは、これからいよいよ日本の業界も「変わる」のだということだ。業界を目覚めさせ、変えていくのだから今こそNetflixは黒船なのだ。
イベントはいよいよ本題の、Netflixで作品作りをしてきたクリエイターたちのトークに入る。

前半は実写部門で、「地面師たち」の大根仁氏、「今際の国のアリス」の佐藤信介氏、「イクサガミ」の藤井道人氏、「全裸監督」で怪演した山田孝之氏が登壇し、Netflixからは髙橋信一氏が進行役を務めた。
彼らの話から、Netflixがいかに質の高いコンテンツを作るためにクリエイターたちにあらゆる面で最適の環境を整えているのか、よく伝わってきた。Netflixがクリエイターに求めるのは最上のクオリティだけで、そこには会社の事情も薄っぺらなマーケティングも関与しない。
中でも私が最重要と感じたのが「いきなりキャスティングの話をしない(大根氏)」ことであり「最上の脚本ができるまで待ってくれる(藤井氏)」ことだ。つまり、純粋にいい企画があってゴーサインが出る。これが日本の業界に決定的に欠けていることだ。
原作と公開日が決まってから脚本を作り始める日本の業界
提携媒体
コラボ実績
提携媒体・コラボ実績
