Netflix会員数1000万突破は、潤沢な予算だけじゃない
2015年9月1日のプレイベントで配られた升
少数の記者たちに坂本氏が明かした会員数
2015年9月に日本でサービスを開始したNetflixが、今年2024年上期に会員数1000万人を突破した。11月25日に少数のライターを集めたラウンドテーブルの場で、日本のコンテンツ統括・坂本和隆氏の口から明かされた。1000万は世帯数なので、日本の世帯数の約6分の1。もはや限られた海外ドラマ好きのサービスではなく、エンタメのインフラになりつつある。アメリカで急成長していたサービスが日本に来ると知って期待し、上陸前後に様々に取材し記事にした私としては感慨深い。
Netflix日本コンテンツ統括・坂本和隆氏
私の期待は、内向きな業界慣習から脱却できない日本の映像業界を「黒船」として揺さぶってくれることにあった。だが当時、「日本では無料放送が強いので、有料サービスが伸びるはずがない」と否定的に述べる人もいた。映画やドラマが大好きな私のユーザー感覚では、レンタル店に出かけなくて済む利便性が大きいと受け止めていたので、わかってないなと思ったものだ。比べる相手は地上波放送ではなく、レンタルDVD業界だ。実際2010年代後半に、レンタルDVD店は急速に衰退した。また「外資サービスは日本の商習慣に馴染めないと諦めてしまう」という人もいた。だがサービス開始時に当時のCEOリード・ヘイスティングス氏に直接取材し、この人たちは成功するまで諦めないと確信した。
2015年9月1日、プレイベントでヘイスティングスCEO(当時)が記者たちに答えた
2015年9月1日のサービス開始前夜祭、業界人がひしめいた
9月2日には、ヘイスティングス氏が個室でインタビューを受けてくれた(真ん中は通訳の方)
日本での成長は、カネにものを言わせたからではない
それでもNetflixは決して順調に伸びていったわけではない。海外コンテンツ中心では、ユーザーが海外ドラマファンに限られて成長しなかっただろう。当初から日本のコンテンツを制作していたが、大きな転機は2019年の「全裸監督」だった。日本でこんなに大胆なドラマが作れるとは!観る側も作る側も驚いた作品だった。
次に来たのは、2020年の「愛の不時着」、2021年の「イカゲーム」を筆頭にした韓国コンテンツの大ヒットだ。コロナ禍に見舞われた日本では地上波テレビの視聴率がぐんと上がったが、それに飽き足らない人々が配信サービスの面白さを発見した。CTV(Connected TV)という言葉と共にネットコンテンツのテレビでの視聴が伸びたことも大きい。2020年に日本の会員数を500万と発表していたが、それから4年で倍増したのは、テレビでの視聴が一般化したためだと思う。
テレビ向けの有料サービスは300万が限界だ。そんな説があったし、不思議とこれまでスカパーもWOWOWもその壁は越えられなかった。そこはすでに4年前に越えていたわけだが、まさか倍増しているとはさすがに私も思わなかった。
ラウンドテーブルでライターたちの質問に、次々にスマートに答えていた坂本氏が、「最初の頃は一人で大変でした!」と、これはホンネだと思える一言を発したのが面白かった。坂本氏はコンテンツ制作の責任者として、日本のオリジナルコンテンツが世界で見られることを示す必要があった。当初は外部制作会社に依頼して実績を積み上げ、日本コンテンツがグローバルでも「回る」ことを証明した。想像すると、孤独で胆力のいる歩みだっただろう。それが認められたからこそ、2020年以降はプロデューサーをはじめ様々な分野のプロたちをスカウトして内部体制を構築できた。
思わず熱を込めて語る坂本氏はクールに見えて熱い男だった
その成果が今年の1000万達成であり、「地面師たち」の社会現象的ヒットなのだ。Netflixはカネにものを言わせてドラマを作っていると揶揄する人は多いが、そこまで持ってこれたのは坂本氏の根気と本気による。感服するしかない。
Netflix一人勝ちの見逃せない要因
ハリウッドのエンタメ業界は今、行先が見えない。映画興行を軸としていたビジネスモデルが崩れ、配信も成長領域とは言えうまくいっていない。そんな中、Netflixだけが変わらず成長して一人勝ちの状態だ。2022年に成長が一時的に止まったのが嘘のようだ。私は、この一人勝ちは彼らの賢さ、コンテンツ力だけに頼らないしたたかな戦略によるものだと思う。