ダルトンに勝てたのは、テレビビジネスの解を誰も持たないから

打てる手はすべて打った万全の清水賢治氏
6月25日のフジ・メディアHDの株主総会は、ダルトンインベストメンツが取締役を送り込めるかが焦点だったが、1人も承認されず会社側の完全勝利に終わった。その理由は3つあると思う。
1つは、清水賢治氏が新社長として詰め将棋のように丁寧に手を打ってきた成果だ。
3月27日に旧取締役陣を一掃し、経営陣をほぼ入れ替えることを宣言した。直後の31日に出た第三者委員会報告書の壮絶さは想定外だったかもしれない。先に退任させた旧取締役陣の責任を問いにくくなった。
だが4月16日にダルトンインベストメンツが株主提案として11名の独自の取締役案を提示し、翌17日にSBIホールディングスの北尾吉孝会長が会見で改革案をプレゼンすると、4月30日に元々は新経営陣に名を連ねていた金光修氏と社外取締役を新たな取締役候補から外し、清水氏以外全員一新を図った。
さらに「フジテレビの再生・改革に向けた8つの具体策」も発表し、体質を抜本的に変えると宣言した。
5月16日にはダルトン側の取締役案を全否定し、そう判断した理由も明示、「改革アクションプラン」も示した。
そして王手になったのが6月5日の「港元社長、大多元専務の提訴」だ。3月27日退任させて責任を問いにくくなっていた旧経営陣の中で、今回の事案の責任がはっきりあると言える2名を訴えた。これによって、旧体制との決別を明確に示した。昔の先輩を悪者にするのは相当な覚悟だっただろう。
そうした打ち手を経て昨日の株主総会を迎えたわけだが、同日の発表資料の中に「指名・報酬委員会の設置に関するお知らせ」があったことにも驚いた。日枝久氏が人事権を事実上握っていたことが大きな弊害と言われていたことに対する100%の回答だ。役員人事はこの委員会で行うもので、内輪で経営陣を決めてしまわないことの宣言だ。
清水新社長は、打てる手は全て打ったと言っていい。記者会見や株主総会での落ち着いた応対も含めて、清水氏に任せれば万全だと、この数ヶ月で誰しも感じているのではないだろうか。
ダルトンの取締役案に最初からあった穴
一方、ダルトン側は打ち手に最初から穴があった。彼らが揃えた取締役陣は、今後のビジネス展開の視点が強いが、いま必要なのはスポンサーを取り戻すことだ。ハラスメント蔓延体質を正し、クリーンな社風に作り替えるための布陣にはなっていない。中には新たなハラスメントを生みそうな人物もいる。最初から人選がズレていた。
さらに、どの候補も現業を持ち経営に専念するのではなく社外取締役にしかなれない。腰を据えて経営はしないのに、口出しだけするのでは頼りになるとは言えないだろう。
北尾氏のやる気満々ぶりだけが際立っていたが、それもあの会見の時だけだった。4月17日以降はぷっつりとフジテレビへの興味をまったく失ったようにしか見えなかった。
1人だけ、株式会社 NEXYZの近藤太香巳社長だけはやる気フルスロットルだった。北尾氏の会見に出てきてプレゼンした人物で、北尾氏がダルトンに提案して候補に加わった、と自身で説明していた。
近藤氏はフジテレビにNEXYZのCMを出稿し、自ら出演もしていた。取締役候補がCM出稿する時点で利益相反を疑われかねない気がするが、それくらい経営に参画したかったのだろう。
あくまで推測として書くが、会見での北尾氏の改革提案も近藤氏がまとめたものではないだろうか。近藤氏のようなテレビ世代が考えそうな内容だからだ。それを北尾氏が提案したら、世間で「20年前から言われてきたこと」と馬鹿にされたことで北尾氏はやる気をなくし、近藤氏を責め立てたのではないか。だから近藤氏としては必死に挽回しようと、CM出稿までしたと推測している。
ダルトン提案で最も話題を呼んだのは北尾氏で、その北尾氏がやる気をなくした時点でダルトン提案は失敗が決まってしまったと私は考える。逆に言うと、あのまま北尾氏が吠え続けたら面白かったし、ダルトンに味方する株主ももっと出てきたと思う。
テレビビジネスの正解なんか誰も持っていない
3つ目の理由は、そもそもテレビ局の経営者としてふさわしい人がダルトン提案にいなかったことだ。それぞれ業界の雄だが、この中の誰にフジテレビの経営を託せばいいのか。わからないなら、ここまでちゃんとやってきた清水氏が中心にいればいい。私が株主でもそう考えたと思う。
そもそもいま、テレビビジネスをこうすればいいと正解を言える人なんていないのだ。
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