君臨し続けた権力者は、自分が悪いと決して認めない、絶対に謝らない

「月刊文藝春秋」の日枝久氏インタビューを読んで書きました
境 治 2025.08.18
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責任ある者が、自分に責任がないと言い続ける無責任

「月刊文藝春秋9月号」に「フジサンケイグループ前代表”日枝久 独占告白10時間」が掲載されている。分厚い月刊誌を買っても処分に困ると悩んでいたら「文藝春秋PLUS」ならネット上で読めると気づいた。

少し文句を書くと、「文春オンライン」と「週刊文春電子版」と「文藝春秋PLUS」があって、どこで何が読めるか、有料か無料か、有料ならいくらかなどいつもわからない。ようやく「文藝春秋PLUS」は月刊誌のデジタル版だと今回理解できた。ぜんぶ「文春」なのでブランドが交錯しているのだ。整理を求む。

で、「文藝春秋PLUS」で森功氏による日枝久氏へのインタビューを読んだが、想像以上に面白く、時には声に出して笑いながら読んだ。何が面白いか。自分勝手だからだ。こんなに自分勝手な人間がいるのか。このインタビューが自分の恥を剥き出しにしてしまうことがわからないのか。「自分には責任がない」と言えば言うほど無責任にしか見えないのがどうしてわからないのか。そこが面白かった。

そしてこのインタビューは、経営を学ぶ格好の題材だとも思った。1人に権力を持たせ続けることがいかによくないかや、権力者から権力を奪うことがどれだけ大変か、よくわかるのだ。

もっとも私が痛感したのが、この権力者に立ち向かわなかったことの罪だ。具体的には、遠藤龍之介氏や金光修氏など、日枝氏に直接ものが言えた人々が、決然と「あなたはもう何もするな」と言えなかったことの罪。日枝氏は40年前に、当時の権力者に対するクーデターを起こした。だから権力移行が成立した。今回はそれが起きていない。

私はずっと言ってきたが、日枝氏が世間に対して「ごめんなさい」と言うことが最も大事だった。

本人がそうしないなら、誰かが斬って捨てるべきだった。やるなら遠藤氏か金光氏だろう。それをしないまま清水賢治氏を社長の座に座らせたわけだが、日枝氏の責任を問わないままでよかったのか、疑問だ。曖昧に終わったから今になってこんなことを言い出した。

フジテレビの取材は断ったのに文藝春秋は断らない身勝手

日枝氏は人望が厚かった。これはOBの人たちがみんな言うことだ。部下を気遣い、だからこそみんながついてきた。

ところがこのインタビューでは、いま現場にいる社員たちのことをこれっぽっちも考えていない。そもそも、7月6日の「検証 フジテレビ問題」では取材に応じなかったのに「月刊文藝春秋」には長々とインタビューに応えるなんて、その時点で相当ひどいことだと思う。

検証番組の取材に応じてほしいと何度か頼まれたと言う。

番組制作を担当した報道側からインタビューの申し出がありました。僕のところへ中元をもってきて『検証番組に出てほしい』と言ってきました。それで『僕がこんなものを受け取れるか』と突き返しました。申し出はありましたけれど、質問項目も何もないので、何が聞きたいのかわからない。

中元を持ってきたから断ったのか?理由がよくわからない。

それなのに、騒動に火をつけた「週刊文春」を発行する出版社の月刊誌からの取材には応じた。これについては・・・

しかし、『文藝春秋』は僕が高校生の頃から愛読していて信頼できる雑誌だし、『週刊文春』とも違う。社員から問い合わせがあれば、そう説明しようと考えています。

好きな雑誌だから「文藝春秋」の取材には応じた、と。なんだそりゃ?フジテレビ報道局より文藝春秋のほうが信頼できると言っている。今の現場を思うなら、自分の好き嫌いよりフジテレビの取材を優先すべきだろう。この時点で、社員たちより自分のことの方が大事だと言ったも同然だ。本当にこんな人が人望を集めていたのか?

自分で承認した社長を「ガバナンスに向いてない」と平気で言う

日枝氏は「上納文化はなかった」と否定しているが、港氏を女性社員が囲む会については「懇親でしょう」と言っている。

上納と懇親はまったく違います。上納は自分の体を捧げるわけでしょう。

と、かなりすごいことを言っている。勘違いしているのだろう。体を捧げる(?)行為がなくても、懇親を強要される文化が気持ち悪いのだ。そして「楽しくなければテレビじゃない」と「上納文化」が結びつけて語られることに大変ご立腹している。「楽しくなければ」の理念を結実させたことに誇りを持っているのだと思う。

港社長についての部分も笑える。宮内正喜氏が社長を港氏にしようと思うと言いに来たので賛成したという。自分が任命したのではない、と言いたいのだろう。百歩譲っても「承認」はしている。だがそのあとで、港氏について・・・

港は企業のコンプライアンスやガバナンスに向いていなかった。たしかに事件の対応はよくありませんでした。今考えると、社長になったのはかわいそうでした。だから本人に、反省しなきゃ駄目だよ、と諭すと、頷いていました。

いやいや、あなた承認したんだから責任あるでしょ。向いてない人を社長にしたんだから、あなただって、反省しなきゃ駄目だよと諭したい。

ことほどさようにツッコミどころ満載なので、ぜひ「文藝春秋PLUS」で読んでみてほしいが、もう一つだけ紹介したい部分がある。

上から「好きにやれ」と見つめられ続けて、好きにやれるはずがない

「フジテレビでは誰が責任を持つのか曖昧になっていたのでは」との質問に、日枝氏はこう答えている。

いくら決めろと言っても、なかなか決断せず、逃げてしまう。もしうちの弊害を問われると、そこでしょうね。逃げる連中ばっかり。これがうちのウィークポイントでしょう。何も決められない執行部が問題だったのは、おっしゃるとおりでしょう

だが前半では遠藤龍之介氏が「自分が社長をやろうと思う」と言ったのに対し「お前だけは絶対にダメだ」と言ったと告白している。適切かは置いといて、せっかく自分で決めた遠藤氏にダメ出ししているのだ。「自分で決めろ」と言っておいて、いざ決めるとダメ出しする。これでは決められない。

この部分を読んで、思い出したことがある。フジテレビが「決められない」会社だったことを象徴する、私の個人的な体験だ。

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