モノを作ったから見えてくる「ホントに便利なテレビ」〜総務省実証実験結果より〜

総務省の調査の詳しい内容を聞いてきました
境 治 2025.07.25
サポートメンバー限定

7月9日の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(第34回)」は非常に充実した内容だった。


前半では電通、博報堂それぞれから放送ビジネスの最前線の問題提起がなされた。その濃い内容を噛み締める間もなく、後半ではプロミネンス制度と仮想プラットフォームについての調査報告が野村総研、三菱総研からあった。これがまた濃厚な内容だったのだが、その濃さに対し発表時間が短く追いきれない。質問の時間もほとんどなく、私にはきちんと理解できずに終わってしまった。

だが特に、三菱総研の調査は実際に操作できる実機を作って調査したもので、もっと詳しく知りたいと思った。

そこで、この実証実験を総務省で取り仕切った岩井義和氏と、実証事業を総務省から受託し、検討会でその成果を発表した 三菱総研の土橋由実氏に、調査について詳しいことを聞きに行った。岩井氏とは10年来のおつきあいで、勉強会にもよく参加していた方なので、無理をお願いしたのだ。直接お二人に話を聞くことができ、この調査結果から「ホントに便利なテレビ」の姿が見えてきたように感じた。

TVerの中にNHKの番組もあると、利用機会が増える

この実証実験は多岐に渡るが、特に私が興味を持った項目について質問した。まずは仮想プラットフォームの検証だ。この実験で注目すべきなのは、実際に操作できる画面を仮に構築したことだ。まさに「仮想プラットフォーム」!

TVerの中でNHKプラスのコンテンツも選択できるUIを作り上げた(実際にNHKプラスのコンテンツを視聴する際はNHKプラスのアプリへと遷移する)。ここがまず大きなポイントだ。デモ画面を構築する前にいくつかの方向性でグループインタビューにかけ、その結果をもとに実験で使う画面を作り上げている。また、HOME画面のメニューの並び順は、仮想プラットフォーム上でユーザーに見てもらいたいコンテンツを相談の上で、「1:ニュース」「2:TVerランキング」「3:NHKで人気の番組」のように並び順を決めて配置した。

被験者はアンケートでこのように回答した。

TVerとNHKプラスが一つのサービスで見られる」ことはほとんどの人が「便利だと思った」と回答。さらに右側のグラフでは「両方表示されることについて」様々に良い評価をしていたことが示される。「見たいコンテンツの量が増える」「これまでよりTVerを立ち上げる機会が増える」「見たい番組が決まっていなくてもTVerを利用する機会が増える」などの質問に9割前後が肯定的な回答をしていた。

NHKと民放が同じプラットフォームで見られることには大きな相乗効果がある、というのはメディアビジョンラボの奥律哉氏が前々から訴えていたことだ。それが実際に作ったUIで実証された感がある。

さらに、この調査では前述の通り「ニュース」の優先順位が高かった。そのことについても、左下のグラフで「あるといいなと思った」「知らない番組、ニュースを見るきっかけになると思った」といった質問にやはり9割前後が肯定的に回答している。ニュースが配信サービスの入口になることを私はここでも何度か書いてきたが、それも確認されたと言える。

つまり、TVerとNHKプラスは一つのサービスになったほうがいいし、その中でニュースを優先させるといい、ということだ。

この実証実験の狙いについて、土橋氏はこう述べた。

「日本のコンテンツが全部集まっているプラットフォームができたら、家に帰ってきたらまずそのアプリを立ち上げてもらえるかどうか、その可能性が垣間見えました。配信の世界でも放送コンテンツに接触する機会が増えればという思いです。」

CTVではYouTubeやNetflixに押されがちなテレビコンテンツだが、工夫次第で存在感を高められるとわかる調査だった。

アクセスしやすければローカルコンテンツを視聴する

次に紹介したいのが、ローカル局の番組動画へのアクセスだ。この調査の被験者は名古屋地区に住む人々。

テレビを見ている時に、「番組関連動画、見逃し無料配信中」と表示する。それを押すとオーバーレイでいくつかの動画のサムネイルが出てくる。どれかを選んで押すと、その動画が再生される。(右への矢印)

あるいは動画ポータル画面に進み、さらにその中から選んで動画を見る。(右上への矢印)候補に出てくる動画は、名古屋市に本社を置く民放が共同で運営するLOCIPO(ロキポ)上のコンテンツだ。

つまり、テレビを見ている時に地元の番組が選択肢として表示されたら視聴するかどうか、という実証実験だ。

このような「ローカルコンテンツプラットフォーム」について名古屋の人々はどう感じたか。調査結果がこれだ。

私は正直、ローカル局の番組に地元の人々の視聴意向がどれくらいあるか懸念していた。ところが、ローカルコンテンツプラットフォームに対する利用意向は「非常に利用したい40.5%」「やや利用したい51.4%」で、9割がありと回答。(左下のグラフ)さらに「普段視聴していないコンテンツ・ジャンルに興味を持つか」の質問にも8割が持つと答えている。

ローカル局のコンテンツは弱い、見られないと言われる。そもそも自主制作率は平均10%しかない。だが、ローカルコンテンツへの経路を作ることで利用意向は高まることがわかった。弱いのではなく、限られた時間しか放送していないからであり、コンテンツを集めてプラットフォームを作り、そこへのわかりやすい経路を示せば、見てくれる。だって自分たちの生活圏の周りの話なのだから。ローカル局の番組は、弱いのではなく見せ方の問題だとわかった。

この結果を受けて、岩井氏はこう語る。

「TVerを使う際の目的意識は、特定のドラマが見たいなどです。ローカル局のコンテンツに目が向くような特集など様々に工夫を重ねていらっしゃいますが、なかなかどうして埋もれがちであるとの声を頂きます。ローカル局がスマホやCTV向けのアプリを作り維持していくのは難しいなかで、TVerの認知や集客力、配信やCMに関する設備はローカル局にとって非常に価値が高いものですが、ローカル局自身で自分たちの地域の視聴者に対して、配信コンテンツへの誘導を作れるかが課題だと考えておりました。」

また土橋氏は、操作できるモノを作っての実験についてこう感想を述べた。

「本事業全体に言えることですが、モノを作ることでリアリティを持って皆さんが議論できたことは、とても大きな意義があると思っています。いろいろと課題も上がってはいますが、なんとなく難しいとの印象論ではなく、はっきりと課題を洗い出せたことが、大きな成果だと感じました。」

プロミネンス=放送コンテンツの優先表示は効果がある

この記事はサポートメンバー限定です

続きは、2076文字あります。

下記からメールアドレスを入力し、サポートメンバー登録することで読むことができます

登録する

すでに登録された方はこちら

提携媒体・コラボ実績

サポートメンバー限定
テレビが特定の政党に感情的になっても、利用されるだけだ
サポートメンバー限定
各政党がネットでどう評価されているか、YouTubeから見えてくる
サポートメンバー限定
7月12日の「報道特集」は批判されても仕方ないし逆効果でもあったと思う...
サポートメンバー限定
パーソナライズしてほしいけど、パーソナライズしてほしくない〜メディアに...
サポートメンバー限定
7月28日勉強会@Zoom「西田二郎氏と静岡放送・静岡新聞のたくらみを...
サポートメンバー限定
「検証 フジテレビ問題」が「御用番組」に見えてしまったのは、清水社長出...
誰でも
この夏、日本中のマスメディアが選挙報道への本気度を問われる
サポートメンバー限定
ダルトンに勝てたのは、テレビビジネスの解を誰も持たないから