Netflixはなぜ自社作品に製作費をたっぷりかけられるのか、公開データから強引に試算してみる

Netflixが12月に昨年上期の各作品の視聴時間を公開した。そこから、彼らの戦略を推論してみた。
境 治 2024.02.20
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読者の皆さんもご存知と思うが、Netflixが12月に作品個別の視聴時間を公表した。今後、年に2回レポートしていくそうだ。

最初の文章が、気が利いている。

「NetflixはYouTubeを除くどの動画配信サービスよりも、人々が視聴している作品に関する情報を提供してきました。 そして今まさに前進する時期を迎えたと考えています。」もちろん、これは「うまい言い方をしている」だけだ。彼らはこれまで頑なに視聴時間などの情報を公開してこなかった。我々ユーザーに対してだけでなく、映画やドラマを売ったり製作する「仲間たち」に対してさえだ。

ところがハリウッドで役者たち脚本家たちがストライキを起こし、様々な要求を提示した中に、配信事業者の視聴時間データの公開も含まれていた。要求を突きつけられてようやく、”情報提供に積極的なNetflix”はオープンにしたわけだ。

コンテンツ製作は2次収入も含めて収益性を見る

そもそも私は、Netflixが視聴時間を「仲間たち」にも明かしてこなかったことが不思議だった。映画興行で言うと日本の場合、劇場収入だけではなかなかリクープできない。2次収入が入ってやっとトントン、うまくいけば利益が出るというスレスレのビジネスが映画製作だ。

もちろん劇場で大ヒットすればそれだけでリクープし、2次収入はまるまる利益になる作品もある。だがそんな幸運は稀で、多くの映画はカツカツで製作している。

ひと昔前は2次収入のメインはDVDだった。製作委員会にはビデオメーカーも参加し、この企画ならどれくらいDVD販売が見込めると試算してくれ、中にはMG(ミニマムギャランティ・最低限の支払金額)を切ってくれたりしていた。

ところが配信の時代になり、2次収入があてにしづらくなってきた。もちろんDVD同様、視聴時間に応じて収益を配分してくれる事業者もいるが、Netflixは視聴時間を公表しないしそれに応じた配分も基本的になしだ。

一方で、Netflixオリジナル作品を制作すると日本の水準とは比べ物にならない制作費をきちんと出してくれて最初はみんな喜んだ。なにしろ日本の業界は「やりがい搾取」で回っている。低い費用で最上級の仕事をしていた。だがNetflixはやった仕事に応じてきちんと費用を出してくれる。エビデンスがすべてに必要になるが、書類が整っていれば制作費がちゃんと出る。そんなことで喜んでいいのか、とも思うが、日本の業界では喜ばしいことだった。

だが、世界中でとてつもなくヒットしても、「よかったね」と言ってくれるだけで、それに伴う収入はもらえない。そういう契約になっているのだ。

それはハリウッドも同じ。だから役者や脚本家の組合は団結してストライキをした。このままじゃ儲からないから、短期的には損をしても、トム・クルーズから無名の俳優までストに従った。権利はこうやって獲得するものだと言う手本を見せてくれた。

こうしてハリウッドの連中が頑張ってくれたおかげで、日本でも数字を見ることができるようになった。素晴らしい!

Netflixの情報公開ページを見ながらふと気になった。たとえば日本のマンガ「ワンピース」の実写化ドラマの制作費は1話10億円とか20億円とか、とんでもない金額が伝わってくる。日本だと映画1本の制作費に10億円かける時は清水の舞台から飛び降りるような気持ちになるだろう。東宝が「ゴジラ」を撮る時ぐらいで、それでも20億円はおそらくかけていない。Netflixは1話あたりがそれくらいで、シリーズ総額だと100億円とか200億円とか目が飛び出るような数字が出てくる。

なぜここまでNetflixは制作費をかけられるのか、せっかく情報が公開されたのだから、試算をしてみようと考えた。

コンテンツ提供者にいくら戻れば妥当かを試算

まず基本情報を整理するが、こっそり語る話なのでここからは購読者限定にしよう。

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