テレビはこれから、報道と娯楽に分かれていく(それぞれ、キビシイのだが)
放送が終焉すると、報道と娯楽は分かれる
放送は終焉する。2025年は放送100年の記念すべき年だが、放送が近いうちに終焉すると痛感させられた年だった。フジテレビ問題、NetflixのWBC独占配信、BS4Kの民放撤退、NHK ONEで露呈した「公共放送」の矛盾、ダウンタウンプラスの好発進、「国宝」の実写邦画興収1位と、放送の時代の転換を示唆することが次々に起きた。これについては別の機会に総括したい。
「放送が終焉する」として、その後を想像していくと一つ、直面する事態がある。テレビにおける報道と娯楽の分離だ。
テレビは不思議なメディアで、すべてのコンテンツを呑み込んでいた。新聞は報道、映画は娯楽と他は完全に用途が分かれているのにテレビだけは混在する。ここで言う報道はワイドショーなども含んだ「情報」と広めに解釈してもらいたい。
放送が終焉する、つまり配信に移行すると、この2つは分離するだろう。配信は「用途別」になるからだ。
実は配信でもFASTなら混在できるのだが、日本ではとっとと分離する方向で進んでいる。TVerがすでにそうだ。
もちろんTVerにも報道や情報番組は掲載されている。ニュースが自動再生されてもいる。だがTVerはそれらをプッシュはせず、報道”も”ありますけどね、といった体だ。基本的にはドラマ、最近はバラエティにも力を入れる娯楽サービスだ。サービスとあえて言ったのは、メディアではない、との意味を込めている。TVerはメディアではなく、NetflixやU-NEXTと同じカテゴリーの「動画サービス」なのだ。
TVerは娯楽コンテンツをニュース情報から分離した
チャートは筆者作成
TVerの構造は、この図のような状態だ。テレビ放送はドラマやバラエティに情報番組やワイドショー、そしてニュース・報道も含めたコンテンツの集積体だ。ところがTVerはドラマとバラエティ。ローカル局も自社で制作するのはニュース・報道と情報番組なのでTVerには入っていない。一部で制作しているバラエティは入っているが。
この状況を、放送業界はいったいどうするのだろうと私は不思議に思っている。これでこの先、放送がどんどん後退したらどうするのか。
テレビ放送は、ドラマとバラエティだけでなく、情報系の番組とローカル局制作の番組の塊全体で、2024年で言うと1兆6351億円を稼いでいる(衛星放送は除く)。これだけの種類のコンテンツがあって稼いでいる金額だ。
TVerは今後の成長が期待されている。現状で、昨年の2倍のペースで広告収入が増えているそうだ。それはいいことだが、ドラマとバラエティだけで10年後、20年後に1兆6000億円稼げるだろうか。稼げるはずがない。
ニュースはコストセンターだとよく言われる。ニュース単体では儲からないが、娯楽番組が稼ぐから持っているのだと。それは誤りだ。テレビ放送は、娯楽も情報も両方あるから稼いでいた。ドラマだけになれば身軽になって収益が増えたりはしない。海外展開できれば別だが、国内市場で放送時代より稼げるようにはならない。
それなのに娯楽と報道を切り離してしまった。そのつもりはないにしても、実態としては切り離されている。報道や情報番組は主にYouTubeに置いている。最近、意外に見られているがGoogleのプラットフォームにおいても収益の大半は持っていかれる。報道は稼ぐことを諦めているかのようだ。
ニュース・情報、そしてローカルのプラットフォームが必要だ
放送はいつか終焉する。それはほとんどの人が「いつかはそうなるね」と納得するだろう。それなのに放送業界は配信プラットフォームとしてTVerしか用意していないのだ。あとは個別のSVODサービス。未来の青写真はいったいあるのだろうか?どうしてニュースのプラットフォームをつくらないのか。そこにワイドショーや情報番組も載せていいと思う。テレビ局が日々生み出している情報系の番組をどうしてYouTubeで済ませているのだろうか。
TVerのようにニュースの配信サービスを作るべきなのだ。そして情報系のあらゆる番組を載せればいい。これほどYouTubeにとって脅威になるサービスもないだろう。プロが取材して制作するので、健全性が担保された情報だけが載るサービスになる。いま必要なサービスだ。オールドメディアは信用できないと言いつつ、そうは言っても比較したら圧倒的にインフルエンサーなどより信じられるサービスになるだろう。
キー局はTVerに夢中だ。だったらローカル局だけで情報サービスを作ればいいではないか。それをIPに応じて身近な地域の情報がメインに出てくる仕組みにする。そうすれば、我が県、我が町で起きたことがわかり、明日何があるかわかる。もちろん健全な情報だ。どうして今すぐ、つくらないのだろうか。手をつけないのはどうかしている。
ニュースを入り口にすればTVerは"テレビ"になる
本当は、TVerにニュース報道や情報番組を載せればいい。TVerを立ち上げてまず表示すべきはニュースだ。今何が起きているかをユーザーに示す。重要なニュースを10種類ほど載せる。ニュースを見ると、関連する情報番組や解説するワイドショーなどにすぐ飛べる。こんな見せ方をすれば私なら1時間に1回くらい立ち上げるだろう。
ニュースはお金にならない。それは誤りだ。Yahoo!やスマニューを人々は頻繁に立ち上げる。今何が起きているかを知りたいからだ。そこには、全国のテレビ局が取材して制作したニュースが並んでいる。ニュースアプリにわざわざおいしいところを持ってかれている。それをTVerが奪えばいい。奪うという言葉はおかしい。自分たちのものなのだから、自分たちのために使えばいい。
ニュースを一通り見たら、バラエティでも見ようか、となるかもしれない。ドラマをお気に入りに入れといて、夜に見るかもしれない。ニュースを入り口にTVerを再構築すれば、最強のメディアになる。サービスではなく、メディアになるのだ。今何が起きているかを教えてくれるのがメディアなのだ。今のTVerはメディアではないし、テレビではない。
ニュースと分離しても、娯楽が儲かるとは限らない
さてニュース情報番組が足手まといだとして、切り離せばドラマやバラエティは儲かるようになるのだろうか。まったくそんなことはない。なぜかを説明しよう。
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