TVニュースと「コア層」との接点が失われている

衆議院選挙の結果を受けて、テレビ報道の在り方を考えます
境 治 2026.02.10
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テレビニュースを見るおじいさんとスマホを見る現役世代をGeminiに描かせた画像

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衆議院選で感じた有権者とテレビ報道のズレ

先日(2月8日投開票)の衆院選は自民党の歴史的大勝に終わり、野党第一党の中道改革連合は壊滅的な敗北を喫した。この結果に対して、開票特番で著名キャスターが「正直驚いた」と口にした場面は象徴的だった。テレビ報道の側にいる人間が、有権者の意思をまったく読めていなかったということだ。

出口調査によれば、有権者が重視したテーマは「経済・財政」と「外交・防衛」が主なもので、「政治改革」はわずかにすぎない。つまり有権者の多くは、家計と安全保障の不安にどう応えてくれるのかという、きわめて実利的な判断で投票先を選んでいた。だからこそ、それを力強く具現化してくれそうな高市氏を選んだのだろう。

一方、テレビ報道はどうだったか。選挙戦を通じて繰り返されたのは、高市政権を「右寄り」「タカ派」と印象づけ、中道改革連合との対立を「保守対リベラル」の構図で描く報道だった。安全保障政策の危うさを強調したり、政治とカネの追及こそが有権者の関心だと想定していた報道も多かったのではないか。「強くてこわい日本」で炎上した番組はその極端な例だ。

だが結果を見れば、裏金事件に関わった自民党候補が小選挙区で勝利している。有権者はその問題は置いといても高市支持を示したかったのだ。テレビ報道と有権者の意識との間には大きなズレがあった。

このズレの本質は、テレビの報道現場がいまだに「政治を左右の軸で語る」クセから抜け出せていないことにあると私は考える。いや、これまで私自身もその二元論で政治を見がちだったからこそ、自省を込めて言いたい。もはや、その対立軸では有権者の意識は推し量れない。

「保守vsリベラル」の構図はもはや通用しない

思えば「保守vsリベラル」という二項対立が政治報道のメインフレームとして機能していたのは、せいぜい2010年代までの話だった。民主党政権の成立と崩壊、安保法制をめぐる論争あたりまでは、この構図にもリアリティがあった。だが2020年代に入るとコロナ禍とその後に受けた経済打撃が大きく、物価高、実質賃金の低迷、国際秩序の不安定化といった、イデオロギーでは割り切れない「生活と安全」の問題が有権者の最大の関心事になった。そこに対して「あの政権は右だ、危険だ」と叫んでも、共感は得られない。

選挙特番で、コメンテーターを含めてキャスターたちが高市氏の大勝利にがっかりしているように映るのが奇妙だ。あからさまに悔しがっているキャスターもいた。もちろん今後、政権が暴走しないかの権力監視は必要だが、無条件に「敵対」したがっているように感じる。テレビ報道は「保守vsリベラル」の構図のリベラルの側に身を置いているといつも感じる。その姿勢はこれまでは一定の視聴者から賛同を得られたかもしれないが、もはや浮いてしまうと考えるべきだと思う。

テレビの政治報道が旧来のフレームに固執し続ける限り、テレビ局が重視する「コア層(13〜49歳)」にとってテレビニュースは「自分たちの感覚と合わないメディア」になっていく。平日の主なニュース番組の視聴率を見ると、50歳以上がメインでコア層はあまり見ていないことがよくわかる。テレビ番組全体の傾向だが、ニュース番組では世代ギャップが大きい。

平日ニュース番組の視聴率グラフ(TVALのデータより筆者作成)

平日ニュース番組の視聴率グラフ(TVALのデータより筆者作成)

テレビ報道は50代以上に向いてニュースを届けてきた。どうしても中高年にウケる報道姿勢に傾いていただろう。そのため、上から目線で権力批判する基本姿勢に陥っていたのではないか。結果、若い世代から共感されず、コア層との接点を失っていた。長らく選挙関連になると報道を控えてきたことも響いている。選挙の時にあてにされる存在ではなくなっているのだ。

実際、今回の出口調査ではSNSや動画を投票の参考にした人は4割を越えている。政治報道に携わる人々は、視聴者を啓蒙する立場にあるのではなく、若い有権者の感覚から遅れをとっている側だという自覚が必要だ。

TVerにニュースを載せ、コア層の意識に近づくべき

では、テレビの報道はどうすればコア層との接点を取り戻せるのか。私は、TVerにニュースをきちんと載せるべきだと考える。

TVerの月間UB数は2025年12月に4,460万を記録し、過去最高を更新し続けている。ドラマ、バラエティを中心にコンテンツの幅は広がっている。ところがニュース・報道番組については、ごくわずかしか配信されていない。日本テレビ、TBS、フジテレビが「24時間ニュース」の形で、CSチャンネルで放送されているのと同じニュースを流しているが、オンデマンドではない。トップページでプッシュされることもなく、ユーザーが自ら探しに行かなければ見つからない状態だ。

これは重大な機会損失だ。TVerはゴールデンタイムのリアルタイム配信を毎日配信してきた。ミラノ・コルティナオリンピックも盛んに配信している。だがニュースだけは、まるで聖域のように残されている。スポーツやドラマには配信の価値を認めながら、報道にはそれを認めていないように見える。この非対称は何なのか。

TVerの主要ユーザーはまさにコア層であり、ドラマやバラエティの合間にニュースが自然と目に入る導線を設計すれば、テレビ報道とコア層との接点を再構築できる。YouTubeにニュースの場を奪われるのを黙って見ているのではなく、自分たちのプラットフォームで勝負すべきだ。

もちろん、ただ地上波の報道番組をそのまま置けばいいという話ではない。TVerに載せるなら、コア層の関心や視聴スタイルに寄り添った編集が必要になる。「右か左か」ではなく「この政策で自分の生活はどう変わるのか」「この外交判断は何を意味するのか」を、わかりやすく、フェアに伝えるニュースが求められる。それはテレビ報道そのもののアップデートにつながるはずだ。TVerでコア層と向き合うことで、どんな伝え方が彼らに有効かが見えてくるはずだ。

TVerは民主主義を守らなくていいのか

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