Netflixが日本の映像製作にこれでもか!とかける揺さぶり(いい意味で)

Netflixラインナップ発表会で感じたことです
境 治 2026.02.03
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Netflix2026年のラインナップ

Netflix2026年のラインナップ

Next on Netflixで発表された日本制作ラインナップ

1月27日、Netflixラインナップ発表会「Next on Netflix 2026」が開催された。会場を100人以上のメディア関係者が埋め尽くし、その規模に圧倒された。

私は基本的に、Netflixのビジネス的な側面を記事にしているので作品の発表会にはさほど興味がない。今回は「行ってみるかな」ぐらいのスタンスで参加したのだが、感心することが多々あったので書き留めておきたい。

イベントは、アニメ、アンスクリプテッド(リアリティショーなど)、実写の3つの部門の今年配信されるラインナップを紹介。これまでより制作数が多く、今年はさらに力が入っていることが感じられた。個人的には東宝とのコラボレーションで制作された「ガス人間」が興味深かった。

Netflixシリーズ「ガス人間」 2026年世界独占配信

Netflixシリーズ「ガス人間」 2026年世界独占配信

東宝の1960年の映画で、「変身人間シリーズ」と呼ばれるシリーズの第3作「ガス人間第一号」のリブート作だ。この題材を日韓スタッフが製作したというからそそられる。

イベントの後半は2つの作品の俳優と監督、プロデューサーによるトークパネル。これに思いの外、心を捕らえられた。

「Winny」の松本優作監督が撮る、はるな愛の半生

Netflix映画「This is I」(2026年2月10日世界独占配信)はタレント・はるな愛の反省を描く作品だ。と聞くと、どうしてもキャッチーさが際立ってしまう。だが監督が映画「Winny」の松本優作と知って俄然印象が変わった。

私は、2023年の公開直後に「Winny」を見て感激し、製作者たちにインタビューした記事を書いている。

日本で作られた「based on a true story」(事実を基にした映画)に感じていた物足りなさを払拭した傑作だった。そして製作陣が若い人たちで、脚本にじっくり取り組む作り方も挑戦的だった。ジャーナリスティックな「Winny」の監督がはるな愛の半生を描く。これは期待が膨らむ。

トークパネルには松本監督と、はるな愛の性別適合手術を担当した和田耕治医師役の斎藤工、Netflix側の佐藤善弘プロデューサーが登壇。正直、オーラを放つ斎藤工と並んだ松本監督の”名もなき若者”感が面白い。だが斎藤は「松本監督のファンでもあった」と語る。「Winny」を見ていたに違いない。スター俳優が33歳の監督にリスペクトを表明する姿が清々しい。

左から松本優作監督、斎藤工、佐藤善弘プロデューサー

左から松本優作監督、斎藤工、佐藤善弘プロデューサー

松本監督は「Netflixで監督をすることが一つの夢だったので驚きました。はるな愛さんと和田先生という組み合わせや、二人の人生を知らなかったこともあり、こんな人生を生きられた方がいるんだと驚きました。」と最初の素直な印象から語り始めた。

「自分らしく生きる、嘘をつかずに生きることは誰もがしたいと思いつつも難しいこと。戦ってきた二人の姿をしっかり描きたいという思いが強くなった」と映画に込めたメッセージを語った。そうか、タイトルの「This is I」は、はるな愛のファーストネームとかけて「I」つまり自分自身として生きることを象徴しているのだなと理解できた。

名もなき若者が、真摯に映画に取り組んできて、Netflixという舞台を得て大きく成長しているのを感じた。それだけでこの映画を見たくなったのだが、さらなる魅力があった。

はるな愛役に抜擢された新人・望月春希だ。オーディション時の映像が映し出され、一人の少年がはるな愛として生まれ変わる様が視覚的に理解できた。まっさらの新人・望月を演出する若手の松本監督。和田医師のように見守る斎藤という構図が見えてきた。こんなワクワクも久しぶりだ。

Netflix映画「This is I」(2026年2月10日世界独占配信)

Netflix映画「This is I」(2026年2月10日世界独占配信)

主演女優は私でいいのかと戸惑い、監督は嫌いだったと吐露する、細木数子のドラマ化

私の世代だと細木数子と聞くとすぐに顔が思い浮かぶほどの著名かつ怪しい占い師だ。その生涯をドラマ化すると聞くとキワモノ的なイメージが漂う。Netflixシリーズ「地獄に堕ちるわよ」(2026年4月27日世界独占配信)で、その細木数子を戸田恵梨香が演じると知ると大丈夫かと心配してしまう。

2つ目のトークパネルでは戸田恵梨香が”それっぽい”椅子に座って登場。瀧本智行監督、Netflixの岡野真紀子プロデューサーとともにステージに上がった。

戸田恵梨香はオファーを受けた時、自分でいいのかと戸惑ったと言う。「自分とは似ても似つかない女性なので不安を抱いたが、プロデューサーから『細木数子のマネをする必要はない。戸田さんが思うままを演じてほしい』と言われたことが勇気となりました」

一方、瀧本監督は細木数子が”嫌い”だったと率直に語る。「オファーを2度断っていました。しかし、そういう人が撮った方が面白いものになると説得され挑戦してみようと思いました」

岡野プロデューサーが細木数子という題材にたじろぐ2人を説き伏せたプロセスが感じられた。

そして笑えるエピソードを瀧本監督が紹介する。「衣装合わせの際、最終回の準備稿に納得がいかなかった戸田さんが、私とプロデューサーの元へ現れ、『シナリオはこれでいいんですか?何を訴えたいんですか?』と詰められまして…」

その時、戸田が極道の妻のような衣装を着ていたので凄みを感じたと言う。同時に、「この人なら細木数子を演じられる」と確信したそうだ。

戸田はこんなことも言っていた。

「台本だと本当は泣いちゃいけないところで涙が出てきたり、自分が今、数子を演じているのか、自分自身が今泣いてしまってるのか分からなくなってしまうような感覚」を持ったと言うのだ。細木数子になりきったのか、細木数子が入り込んだ新たな戸田恵梨香になったのか。そんな演技が見られそうだ。

この日は登場しなかったが、もう1人、伊藤沙莉も出演するという。”嫌い”な細木数子を描くために、瀧本監督が大きな改稿を加えたのだ。

「一番大きなポイントは伊藤沙莉が演じる売れない小説家が細木数子の自伝的な小説を書くという、現在軸の中で人生が明らかになっていく構成」に変えた。

瀧本監督は、自分に「細木数子の自伝映画を撮ってみませんか」と依頼が来たらどうかと考えシナリオを作ったというのだ。

左から、岡野真紀子プロデューサー、戸田恵梨香、瀧本智行監督

左から、岡野真紀子プロデューサー、戸田恵梨香、瀧本智行監督

細木数子という厄介な題材を、女優と監督が悩みながら自分のものにしていく様子が語られ、きっと2人を操ったであろう岡野プロデューサーのしたたかさと計算も透けて見えた。キワモノにしか受け取れなかった「地獄に堕ちるわよ」だったが、女優と監督、そしてプロデューサーの力が結合し、化学反応を起こした様を見たいと楽しみになった。きっと私は一気見してしまうのだろう。

Netflixシリーズ「地獄に堕ちるわよ」 2026年4月27日世界独占配信

Netflixシリーズ「地獄に堕ちるわよ」 2026年4月27日世界独占配信

日本の業界は、Netflixに揺さぶられるべき時だ

2つの企画のトークパネルから、個々の企画のキャスティング、スタッフィングに並々ならぬ力を入れて作品を作っていることが感じられた。そして何より、時間も予算も十分にかけていることもわかる。

日本のアニメ作品が世界で評価されているのに比べて、実写作品の評価は今ひとつだ。それは決して、日本のスタッフや俳優たちが力不足だからではなく、その力を生かせる予算と時間がかけられていないからだと私は思う。はっきり言って日本の既存業界はそんな姿勢を持っていなかった。制作フローに脚本に時間をかけたり役者が訓練したりは織り込まれていなかった。だが方針を変えたら「国宝」のような力強い作品が生まれて興行でも大成功した。

Netflixがカネの力に物を言わせて日本の業界を食い物にしようとしていると言う人もいる。私はカネの力でもなんでもいいから、日本の業界をNetflixに揺さぶって欲しいと思う。Netflixでの作品作りを経験した俳優やスタッフが、今度は日本のコンテンツ制作に影響をもたらすはずだ。はっきり言って日本の制作費は安すぎた。時間もかけなさすぎだった。

そうした”欠陥”を日本の業界が反省し、やり方を一から見直せばきっと良くなる。そうすれば「国宝」なみの傑作が次々生まれ、アニメに続いて世界に羽ばたく可能性も十分あると私は考える。だからNetflixには大いに日本を揺さぶってくれと思っている。

日本の映画やドラマ作りの常識を変えないと海外展開なんかできない

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