米国メディアの動きから、日本のメディアは何を学ぶべきか

NetflixのWBD買収をどう受け止めるべきか
昨年12月5日、Netflixがワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)の映画・テレビスタジオおよびHBO Maxを含むストリーミング部門を買収することで合意したと発表した。企業価値にして約827億ドル(株式価値720億ドル)という、エンタテインメント史上最大級のディールだ。一方、パラマウント・スカイダンスが対抗買収を仕掛けており、まだ決着は見えていない。トランプ大統領が介入を示唆したが、その後なぜか関与しないと言い出した。
ただ、2月3日に米国議会で行われた公聴会でNetflixのCEOテッド・サランドス氏が様々な追及を受けており、当局の判断に影響する可能性はある。

決着はまだ先になるが、買収が実現すれば配信プラットフォームが老舗スタジオを丸ごと飲み込むという、メディア産業の構造を根底から変えることになる。
注目すべきは、WBDのリニアTV部門(CNN、TNT、Discovery Channelなど)は「Discovery Global」として分離される点だ。つまりNetflixが欲しいのはストリーミングとスタジオであり、テレビ放送の部分にはもはや価値を見出していないということでもある。放送の時代が終焉に向かっていることの象徴かもしれない。
ただアメリカのローカル局を束ねるネクスターとテグナの合併のニュースが入ってきた。メディアジャーナリストの大原通郎氏は「合併するとこのグループだけでアメリカの全世帯数の80%をカバーすると言われています。これほど巨大なローカル局の連合が生まれれば、ネットワーク局の言うことを聞かなくても済むようになるかもしれません。」と解説する。
日本のメディア関係者はこれらの動きを「アメリカの話」として傍観すべきではない。その先にどんなメディア状況が生まれるのか。それは日本のメディア市場にも必ず波及する。
日本コンテンツは海外展開できるのか
しばしば語られるのが「日本のコンテンツは海外展開すべき」という期待だ。確かに、アニメは世界的な人気を誇り、Netflixでも日本のアニメ作品は高い視聴数を記録している。「鬼滅の刃」「呪術廻戦」「ワンピース」といった作品群が世界で受容されている事実は否定できない。
しかし冷静に見れば、海外で通用しているのはあくまでアニメであり、ドラマやバラエティといった実写コンテンツの海外展開は極めて限定的だ。韓国がドラマで世界的な存在感を確立したのとは対照的に、日本の実写コンテンツは言語やフォーマットの壁を越えられていない。
また、アニメにしても、制作の主導権を握っているのは必ずしも放送局ではない。製作委員会方式の中で放送局の出資比率は高くはなく、配信プラットフォームが直接出資して制作するケースが増えている。
日本コンテンツの海外展開は可能性としては大きい。だがそれを実現するためには、制作・流通・マネタイズの一気通貫した戦略が必要であり、現在の分散した業界構造のままでは、その可能性を十分に活かすことは難しい。
AccentureやNetflixにも在籍した注目の若手論客、尾形拓海氏は「その方向性に進むにあたって、放送局には足りないものが多すぎます。コンテンツビジネスを本格的に行うには、組織のあり方、投資の意思決定プロセス、DXの推進など、やらなければならないことが山積みです。」と懸念を示す。
すべてのプレイヤーが「IPが大事」と言うが、どう生かすかが重要
近年、日本のメディア・エンタテインメント業界では「IP(知的財産)が大事」という言葉が合言葉のように語られるようになった。確かにIPの価値は極めて大きい。ワーナーがNetflixにとって魅力的なのも、DCコミックスやハリー・ポッターといった強力なIPを保有しているからだ。ディズニーの強さもマーベルやスター・ウォーズといったIPに支えられている。
日本も強力なIPを多数保有している。マンガ・アニメだけでなく、ゲーム分野でも任天堂やソニーが世界級のIPを持つ。だが問題は、それらのIPがメディア企業の競争力に十分に結びついていないことだ。
米国では、IPを軸にした映画、ドラマ、テーマパーク、ゲーム、グッズといった多角的な展開が戦略的に行われている。ディズニーがその典型だが、Netflixもワーナー買収によってIPのマルチユース展開を本格化させると推測できる。一方、日本では出版社、放送局、映画会社、ゲーム会社がそれぞれ別々にIPを活用しており、統合的な戦略を持つプレイヤーが少ない。
「IPが大事」と唱えるだけでは不十分だ。IPをどう囲い込み、どう多面的に展開し、どうグローバルに流通させるか。その具体的な戦略と実行力が問われている。米国メディアの動きは、IPの価値を最大化するためにどれだけ大胆な投資と再編が必要かを教えてくれる。日本のメディア企業はその教訓を直視すべきではないか。
この点についてITからの視点でメディアの動向を語る、西田宗千佳氏は「アニメは、小さな粒度のヒットをたくさん積み上げていく『積分』のような考え方でビジネスが回っています。同じように実写もいかにして小粒のヒットを生み出し、その中に時々生まれる大ヒットを待つか。そして、IP活用をグッズやライブイベントといった周辺ビジネスにまで広げていけるかが重要です。」とIP活用のポイントを語る。
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NetflixのWBD買収の意義、米国メディアの今後の展望、そして日本のメディアがどう影響を受け、どう変化していくべきかについて、パネリストの皆さんとともに議論を展開する。
パネリストは、上の記事中でコメントを紹介した大原通郎氏、西田宗千佳氏、尾形拓海氏。筆者がモデレーターを務め、現状分析だけでなく、放送終焉後のメディアの世界がどうなっているか、近未来も見据えた議論をお届けする。
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