生成AIをうまく使いこなした放送局の事例は、北海道のローカル局にあった

放送局の生成AI活用はまだまだ試行錯誤の段階だが、北海道文化放送(UHB)に先進的な事例があったので取材した。
境 治 2024.07.05
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すでに業界で評価されていた、UHBの生成AI活用事例

私は、生成AIを自分でも使い、また進んだ使い方について情報収集している。まだまだみなさん手探りで、メディア業界では模索中といったところのようだ。

私も記事を書く際の手助けにはなるものの、ものすごく楽になる使い方は見出せていない。どうすれば時間効率を高められるかを探って時間を費やし、しかも何の収穫もなく終わったりしている。いまのところ、インタビューの文字起こしは生成AIで圧倒的に便利になった。音声認識AIよりレベルが高いと思う。ただそこから先は、自分でやったほうが早いのが私の現状。

一方、情報収集していると、生成AI単独ではたいしたことはできないが、他のアプリケーションと組み合わせるといろいろできるようになるようだと知った。ただそうした使い方になると、私のような文系個人では手に負えず、会社としてしっかりスタッフィングして予算もつける必要があるだろう。

そんな情報収集の中で、北海道文化放送(UHB)がAWS(Amazon Web Services)をうまく使って生成AIによる業務効率化を進めていると聞いた。

そこでUHBのコンテンツ本部長、中川尚取締役と、報道情報部の喜多真哉氏にリモート取材をお願いした。そこから見えてきたのは、新しい取り組みへの意欲ある社員の化学反応だった。

Zoomで取材中の画面。上左が喜多氏、下が中川氏。

Zoomで取材中の画面。上左が喜多氏、下が中川氏。

説明は喜多氏が用意したスライドを見せながら進めてくれた。UHBが開発したツールは「Pobully」という名称で、フジテレビ系列の第31回FNSテクニカルフェア「あんたが大賞」でも金賞に輝いた。すでに評価されているのに、今まで見つけられなかった私はかなり迂闊だった。

UHB 喜多氏のスライドを許諾を得て使用

UHB 喜多氏のスライドを許諾を得て使用

Pobullyは業務の効率化と自動化を図るツールで、具体的には「紙のリリース→自動で”完パケ”をつくる」ことを目指して開発された。これが実現できたのは、「AWSの使い手」と社内で呼ばれている杉本歩基氏の存在が大きい。喜多氏の相談を受けて杉本氏が構築したのがPobullyだった。いくつかのソリューションで構成されるPobullyについて、一つずつ説明してもらった。

FAXで届いたリリースに取材情報を加えて、記事を自動作成する

放送局には、企業や行政官庁から様々なリリースがFAXで届く。いわばニュースのタネだ。これを記者たちに共有することはこれまでも行われていた。ただ、FAXで届いたものをそのまま画像でスマホに送り届けるやり方。だがそれだと、中身が読みにくいし数が多いので目を通せない。そのため大事なニュースを取り逃すこともあった。

そこで記者たちにリリースを送る際に、FAXから文字をテキスト化し、要約も添えるシステムを開発。要約を見てニュースになると判断したら、記者が電話したり実際に会ったりして得た情報を追加することができる。

すると、リリースに追加情報も加えた内容の記事が自動的に生成されるのだ。

「レベルで言うと記者2年生くらいのレベル。こんな6割7割程度の内容では記事にならないというベテランもいます。でもゼロから記事を書く必要がないのは圧倒的に楽だと私は思います。」と喜多氏は言う。

この感覚は、私にはピンとくる。実は、わかった情報を構成して7割くらいの記事にしてくれれば、あとは足したり引いたりして記事を完成させられる。記事を書くための生成AIの使い方で七転八倒した私からすると、この便利さはよく理解できるのだ。

リリースをテキスト化し、要約を付け加え、記者の取材情報を加えて記事が自動作成される。生成AIだからこそ可能になる効率化だ。

動画の作成も生成AIにより簡単な工程で配信

今度は、記者が得たちょっとしたニュースを、テキストから動画化して配信する仕組みだ。

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