夢のような世界を泥のような現場が支えている〜映画戦略企画委員会への期待〜
日本にもフランスのような映画文化を守る仕組みを
今週月曜日、9月9日に内閣府で「映画戦略企画委員会」という会議体がはじまった。今年の春ぐらいから岸田首相の「新資本主義会議」の流れで構想が進んでいたようだ。8月7日に岸田首相が設立を表明していた。このような議論が内閣府の主催で行われるとは、素晴らしいことだ。今後の進捗に期待したい。
是枝裕和氏や山崎貴氏などが世界の映画界で評価される一方で、日本の映像制作の現場は疲弊している。コンテンツ産業の一翼として映画が期待されているなかで、現場が今のままでは立ちいかなくなる。現場改革の機運がようやく高まっていると言える。
是枝氏は、「日本版CNC設立を求める会(通称:action4cinema)」の理事としてクリエイターやスタッフの立場を改善するために、フランスのCNC(国立映画映像センター)という機関の日本版を作ることを呼びかけていた。この活動については、この団体が制作した動画があるので見てほしい。
簡単に説明すると、フランスでは映画館の入場料や映画が放送・配信された際の収入の一部がCNCに集約され、映画に携わる様々な人材の立場を高めることなどに活用されている、ということだ。この「入場料などから国内映画産業の振興金を徴収する」制度は理にかなっている。フランスでも興行収入の上位はハリウッド作品が占めるのだが、外資も含めた売上から国内映画の振興に充てるのは、国内映画産業を一定レベル守ろうとの意図だ。つまり、映画産業をビジネスとして捉えるだけでなく、国の文化と見て守るべきとの考え方だ。
日本にはこの考え方がない。action4cinemaはそこに問いかけている。映画産業をフランスのように文化として守る必要なないのでしょうか?そう訴えかけているわけだ。
映画だってビジネスなのだから、そんな制度はいらないでしょ?観客はそう思うかもしれない。映画業界も、共助の仕組みなんて考えてもこなかった。潔いようで、現場が疲弊して継続が危うい状況になっているのは、無策すぎただけではないか。
アメリカにはそんな制度はないでしょう?そう言う人もいるかもしれない。日本のメディアやコンテンツ業界はアメリカを範にしてきた。自由競争の考え方。
だがアメリカには組合がある。社会主義的な制度と思いがちな組合が、クリエイターや現場を守るために機能してきたのだ。重要なのは、会社ごとではなく職能ごとの組合であること。ギルドのようなものだ。
直近でも昨年(2023年)、全米脚本家組合と、俳優組合がストライキを決行した。AIの利用制限と配信での追加報酬を求めたもので、脚本家組合は5月から、俳優組合は7月からストに入った。
ストライキ中はまったく活動できない。トム・クルーズも新作のプロモーションさえ関与しなかった。9月から11月にかけて妥結し、それぞれ要求を認めさせた。組合員がストに従うのは、そうやって権利を勝ち取ってきたからだろう。
アメリカのスタッフと仕事をすると日本の映像制作者は驚く。6時以降はどんなにスケジュールが押していても仕事をしない。組合で決まっているからだ。その分、みんなでバーベキューして食事を楽しんだりする。
日本の業界で働き方改革をめんどくさそうに言うが、そんなことだから待遇が良くならないのだ。6時を過ぎたら仕事しないと業界で決めたら守る、そんな意識を持とうともしないから日本の業界は良くならない。もっとも、働き方だけを言ってもCNCや組合のような制度がないと面倒にしかならないだろうが。
日本の映像業界はこのままでは現場が疲弊し倒れる
日本の映画業界には、フランスのような共助の制度もない。アメリカのような組合もない。現場は安いギャラで朝早くから深夜までのたうち回って仕事している。そんな状況でコンテンツビジネスが世界へ羽ばたけるはずがない。何がクールジャパンだ。
それをやっと首相肝入りで議論する場ができた。首相が代わっても継続するはずだ。「映画戦略企画委員会」には大いに期待したい。日本の映像制作業界のどこがダメなのか、もう少し語っておきたい。