日本映画の新たな仕組みを提案する、映画プロデューサー川村岬氏の現在地

カンヌ映画祭で二人の女優が受賞した映画「急に具合が悪くなる」が6月19日から公開され、大きな話題を呼んでいる。私もさっそく観に行って感銘を受け、記事にしてPodcastでも配信した。
この映画をはじめ、濱口竜介監督を支援してきたプロデューサー・川村岬氏の名は映画ファンの間でもあまり知られていない。映画会社やテレビ局、制作会社など直接映画作りに携わるタイプのプロデューサーではなく、主に資金面で製作に関わってきた。出資するのはいわゆるメジャー作品ではなく、濱口監督や黒沢清監督をはじめとするアート系の映画だ。
そこには、優れたクリエイター、良質な映画を支えたい思いがある。そもそも川村氏はクリエイターをバックアップしていたらそれが事業になっていた不思議なIT経営者だ。
これまでの映画への関わり方と、今後のビジョンを聞いた。
IT事業者としての原点は、クリエイター仲間のために便利なことをすること
――まず、株式会社ねこじゃらしの成り立ちを教えてください。
川村岬氏(以下、川村):もう創業から20年になります。大学までは文系だったのですが、大学に入ったタイミングで、オン・ザ・エッヂ(後のライブドア)でアルバイトを始めました。そこで初めてインターネットの可能性を感じました。
ちょうどビットバレーブームの時代でしたから、サイバーエージェントもソフトバンクも、ITに人がどんどん集まってきていた。「自分でも何かやりたい」という気持ちが少しずつ育ってきました。
――サーバー事業を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
川村:当時、大学の友人たちが自主制作映画を撮っていて、手伝っていたんです。彼らはみんなMacを使っていたのですが、ダイヤルアップやISDNの時代でも、「映像データをネットワークでやり取りしてデジタルに保管する時代が絶対来る」という確信がありました。
常時接続が始まったタイミングで、自宅にパソコンを置いて仲間みんなにアクセスしてもらってデータを交換し始めたら、「これ便利だね」ということになって。ある人に「それ、商売にしたらみんな喜ぶんじゃないか」と言われて、背中を押されました。
――そこから会社設立に踏み切ったわけですね。
川村:難しく考えなかったんですよね。ヤフーで調べて、一番最初に出てきたサーバー会社に電話して、「1個だけサーバーを置いてほしいんですが」と言ったところからのスタートです(笑)。
クリエイターはみんなMacを使っていたのに、当時のサーバーはLinuxやWindowsで動いていたので、ファイルが文字化けしたり壊れたりして大変でした。そんな時期にAppleがサーバー製品(Xserve)を出したので、「これだ」と思って急いで買って、データセンターのラックに入れてもらった。それが始まりです。
――現在の主なクライアントはどのような方々ですか。
川村:最初は音楽関係の方が多かったのですが、今は映像制作会社やデザイン会社、カメラマンの方など、クリエイティブ系の企業がメインです。自分でクリエイティブなことをするのも好きですが、クリエイティブな人たちがもっとクリエイティブになるためのものを作る——そちらの方が自分の能力を活かせる、という感覚が昔からあります。
川村氏が代表を務める株式会社ねこじゃらしWEBサイトより「Jector」が本業であるクリエイター向けストレージサービス
配信事業への挑戦と「人を軸にした映画の届け方」
――ストレージ事業のほかに、映像配信の仕組みも手がけていると伺いました。
川村:はい、4〜5年ほど前から配信サービスの裏側を担うBtoB事業をやっています。たとえば全国に約300施設ある老人ホームへの映画配信の仕組みや、映画アプリで予告編がスワイプして見られる機能の裏側のサーバー部分を提供しています。基本的には配信の裏方ですね。
――一方で、直接ユーザーに届けるBtoCのサービスも試みていると聞きました。
川村:「Roadstead」という配信サービスを作ったのですが、正直、BtoCはなかなか得意じゃないと気づきました(苦笑)。インターフェースが不親切で、「レンタルなのに値段がどこにあるの?」という状態で。それは今まさに改善中です。
――どのようなコンセプトで作ったサービスなのですか。
川村:今の配信サービスってどこも作品がずらっと並んでいて、みんな結局ランキングから見るだけですよね。昔はTSUTAYAに店員さんのポップがあって、物理的に目に入る工夫があった。今はそういうものがない。
それで考えたのが、「昔の図書館カード」のような仕組みです。誰かが一定の作品を購入して、その人が自分の好きな値段で他のユーザーにレンタルする。つまり作品を軸にするのではなく、「人を軸にした」映画の届け方ができないかと。映画評論家でも普通の人でも、「私のおすすめ10選」を起点に作品とつながっていけば、超メジャー以外の映画もちゃんと発掘されるんじゃないかと思って。現在、特許を申請中です。

Roadsteadの「レンタル」は、先に購入した個人が値付けした価格で貸し出す仕組み
――誰かの個人的なおすすめで見るコンテンツを選ぶ仕組みは私も欲しいです。先日もNetflixでグレッグ・ピーターズ氏にそう主張しましたがピンときてくれませんでした。
川村:まさに私が求めていたものでもあります。ただ、思いとサービスの表現がまだ追いついていないのが正直なところです。
――ぜひ進化させて実現してください!
映画プロデューサーとしての原点は「スパイの妻」から
――いつ頃から映画に出資・プロデュースして関わるようになったのでしょうか。
川村:2020年頃、6年ほど前ですね。大学時代に自主制作映画を手伝っていた友人たちが、プロデューサーや監督として活躍するようになっていたんです。黒沢清監督の作品で、プロデューサーは友人の岡本英之さん、脚本も濱口竜介さんと野原位さんが担当する作品の企画があり、友人に協力したい思いもあって出資しました。それが映画『スパイの妻』です。
――いきなり世界的に評価された作品への参加でしたね(第77回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞)。
川村:僕にとってはたまたまですが、いま振り返るとこのメンバーなら当然という気がします。ただその後、出資の話がたくさん来るようになって、さまざまん映画に関わるようになっていきました。『敵』は、『ドライブ・マイ・カー』でお世話になった方から「こういう映画があるけど見てみないか」と声をかけていただいて。モノクロで出すという話を聞いて、おもしろそうだと思って参加しました。

川村岬氏プロデュース作品リスト
製作委員会方式の限界と、映画ファンドという挑戦
提携媒体
コラボ実績
提携媒体・コラボ実績


