NHK会長は1.財界から2.プロパーから、とは別に第3の選択肢がある

※この記事は、業界の人との飲んだ時の話をもとにした一種の与太話として読んでください。
境 治 2024.09.06
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「突然指名され驚いた」現会長、稲葉氏

NHKの会長人事は、公共放送という国民にとって重要な組織のトップ選びなのに、プロセスが非常に不明解だ。それが顕著だったのが、現在の会長、稲葉延雄氏の決まり方だった。NHK会長は任期が3年。稲葉氏は2023年1月に就任している。その人選は前の年の2022年12月に発表された。そもそも公共放送なのに、トップが誰になるかは発表時まで明かされない。どう選んだかもよくわからない。建前上はNHK経営委員会が選ぶのだが、もちろんお膳立てが先にあって委員会が選んだ形を取るだけだろう。

この時は、当時の会長、前田晃伸氏が続投を望んだが果たせず、自分の意を汲む人物を選ぶと噂された。一方で、前田氏の意のままにはならないとの声も聞こえてきた。

そこに、12月3日土曜日に某経済誌が前田氏の後継者は「丸紅元社長の朝田照男氏で最終調整に入った」とスクープして私は大変驚いた。ところが、週明けの5日になって「NHK会長に稲葉氏が就任へ」と複数のメディアが報じたのでもっと驚いた。午後になって経営委員会が稲葉氏を選出した。

これについては、某経済誌のスクープを見て何者かが怒り、急遽稲葉氏にお鉢が回ってきたのだと言う人もいれば、稲葉氏に少し前から決まっていたが某経済誌に朝田氏説を誤ってリークしたのだと言う人もいる。真相はわからないが、前田氏が自民党に疎まれていたのは間違いなさそうだ。

前田氏は、急激な改革を進めていった。管理職を減らしたり40代を地方局長に据えたり、主に人事や組織面を大胆に変えていった。NHKが物事を進める時は、かなり根回しが必要で、自民党はその重要な対象らしい。だがみずほグループのトップに登り詰めた人物なので、政治家への根回しの必要を感じなかったようだ。

稲葉氏は「突然の指名で驚いたが」と選出時にコメントしており、「突然」だったことを認めている。真相はわからないが、すったもんだの末に指名が飛んできたと見ていいだろう。

と書きつつ、公共放送のトップが政権与党の意見で変わったり、詳しい経緯は表沙汰にならず、さらにそれを伝えるメディアもその前提で報じる、その状況はなんたることかと思う。おそらくそう聞いた国民の多くは「そんなもんでしょ」と気にも留めないのだろう。私企業の人事ではなく、私たちが受信料を支払う公共放送のトップ選びが、そんな前近代的な経緯で決まる。私はなんとおかしなことかと思うのだが。

プロパー選出に戻すことが正しいのか?

さてここから本題に入る。NHKの会長は長らく財界から選ばれてきた。これは2000年代にNHKで不祥事が続出して問題になり、時の政権がまず経営委員長として富士フイルム社長だった古森重隆氏を送り込んできた。その頃までの経営委員を、ある元NHK職員は「大学教授の名誉職」と表現している。お飾りだったという意味だ。

経営委員は衆参両院の同意を得て首相が任命する。おそらく2000年代までは形式的な任命で、NHK側で選ぶことができたのだろう。だが不祥事に業を煮やした政権が、経営委員の人事権を握った。それが第1次安倍内閣であり、菅総務大臣だった。

そしてついに会長も経営委員会が選ぶ形で財界から送り込まれる。2008年1月に就任した元アサヒビール会長、福地茂雄氏だ。

その後も財界からの選出が続き今に至る。いわゆるリベラルな人々は、財界から自民党の手先としてやってくると思い込んでいるが、それぞれ経済人として業績ある人たちで、そうそう政治家の思い通りに動くわけではなかったようだ。前田氏は極端だったが、NHKの業務執行のトップとして自分の考えでやるべきことを遂行していた。内部の印象もそれぞれについて「〇〇さんはよかった」との声が多い。

ただここへ来て、財界からのトップが続いていいのかとの意見がそこかしこから聞こえているようだ。「プロパーに戻していいのでは」との空気が漂いつつあるらしい。

しかし現在の執行部は前田会長から疎まれていた人々がクーデターのように実権を握った形で、「旧前田派を粛清」していると、噂だがはっきり聞こえてくる。そんな某国の独裁政権みたいな連中に公共メディアの今後を託していいのか。そこで財界でもプロパーでもない、「第3の選択肢」が考えられる。

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