Netflix「地面師たち」の超絶的面白さの向こうに、日本エンタメ界にこれから起こる変化を見通す

日本のドラマ製作の常識は世界とズレていたが、Netflix製作作品が増えれば変わるかもしれない。(記事の最後に29日の勉強会のお知らせがあります)
境 治 2024.08.15
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「地面師たち」グローバル3位は日本エンタメ界の変化を示す

ドラマ「地面師たち」は7月後半、強烈な臭いを放ちながらNetflixのリストに登場した。吸い寄せられるように再生ボタンを押した私は、じっくり味わって見るつもりが三日三晩で見終わってしまった。見始めたら止まらないドラマは久しぶりだ。

地上波テレビでは絶対に放送できないシーンが続出。ハリソン山中という怪しい役名がハマった豊川悦司と良心があるのかないのか不明な拓海を演じた綾野剛をはじめ、個性的なキャラクターを演じた俳優たちがドラマの魅力を倍加していた。改稿を重ねたに違いない脚本と各場面を計算し尽くした演出を担当した大根仁にはテレビの前でスタンディングオベーションを贈りたいほどだった。すっかり私より目の肥えた娘が、珍しく日本のドラマを絶賛していたのも当然かもしれない。

さっそくNetflixでドラマ部門の再生数トップになっていた。気がつくと「地面師たち」を絶賛するネット記事がどんどん出てきて、Facebookのお友達のみなさんも「ハマった」「やめられない」と中毒者が続出していた。そこまでは予想できた流れだが、こうなるとグローバルで上位に食い込めるかが気になる。何しろ「五反田の土地を巡り大企業が騙された事件」をモデルにした実話ベースの物語。ドメスティックで日本の日常を知らないと面白さが伝わらないのではないか。そんな杞憂を吹き飛ばしたのが、この記事だ。

グローバルで3位!そうか、海外でも「地面師たち」の面白さは伝わったのだ!日本人にとっての面白さを追求すれば、海外でも通じる。私は喜びつつ、このドラマはいま日本のメディア界、エンタメ界で起こり始めた流れを象徴しているのではないかとも感じた。Netflixの日本上陸からもうすぐ10年、起こって欲しかったこと、起こるべきだったことが、いま実際に起こっている。

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「地面師たち」のヒットを受けて、ネガティブな記事も当然のように出てきた。その典型が現代ビジネスのこの記事だ。週刊現代名義になっていて、紙の週刊誌の記事の転載だろう。

Netflixの製作費が莫大なことについて「通常、民放のテレビドラマなら1クールすべて合わせた製作費が3000万円ほど」との関係者のコメントが出てくる。この時点でこの記事は当てにならないことがわかる。1話3000万という話はよく聞くが、深夜ドラマであっても1クールつまり10話を3000万円で製作するのは無理だ。製作会社もはっきり断るような金額。さすが週刊現代、あからさまにいい加減なことを平気で書いている。

週刊現代の記事はちっとも信頼できないのが常だ。だから他の箇所も信頼できないわけだが、この記事によると「Netflix作品に出演する際、撮影期間は他の仕事を受けないことが条件」になるので、芸能事務所が戦々恐々としているそうだ。そんなことあるはずがないだろう。

「各事務所がアレルギー反応を起こしているのが現状」とまで書かれているが、だったら「地面師たち」にトヨエツと綾野剛だけでなく小池栄子や北村一輝、リリー・フランキーや池田エライザなど人気者たちがなぜ出演しているのだろう。

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