日本のコンテンツは韓国と肩を組んで世界を目指せ
YOASOBI&K-POPのコラボとゴジラのアメリカヒット
昨年大晦日の「紅白歌合戦」は旧ジャニーズ事務所の出演はなく、盛り下がるのだろうとぼーっと見ていたら、だんだん惹き込まれていった。そしてクライマックスのYOASOBIとグループアイドルたちのコラボに目を奪われた。この辺りの印象は年明けに東洋経済オンラインで書いている。
グループアイドルの中には日本のグループもいたが、韓国のグループが中心だった。そのことも含めてこのコラボを評価する声が多かったと思う。それにしても、YOASOBIと韓国アイドルたちが共演するのはどういうことか。何か意味深いものを感じていたら、こんなNHKスペシャルが年明けに放送された。
NewJeansなど新進K-POPグループたちがBTSなどに続いてアメリカで評価される中、昨年YOASOBIも「アイドル」がアメリカでヒットし、フェスにも出演して観客たちをエキサイトさせたことをレポートしていた。なるほど、こういう流れの中で、紅白のコラボがあったわけだ。
アメリカのフェスも、アジアのミュージシャンたちを集めたものであり、それらのファンがいま形成されつつあるようなのだ。もちろんアジアから移民してきて暮らす「同胞」が核のようだが、白人も黒人もいる。黒人観客がアジアの音楽に乗って踊ってる様子を見るのは、なんだか嬉しい気分になる。
またYOASOBIの「アイドル」はアニメ作品「【推しの子】」のテーマソングであり、この作品がアメリカでも人気となり、同時に曲もヒットした。
日本のアニメと音楽、そしてK-POPと、アジアのカルチャーが欧米で親しまれる土壌が今できつつある。市場と言えるものができつつあることが、これまでと違うようだ。そしてまた、「ゴジラ-1.0」と「君たちはなぜ生きるのか」の2つの映画がアメリカでヒットした。
後者はゴールデングローブ賞を受賞した一方で、前者はアカデミー賞の視覚効果部門にノミネートされ、監督の山崎貴氏はアメリカでプロデューサーたちと話しているという。
日本のコンテンツ産業に今、何かが起ころうとしている。ひと頃は日本のコンテンツは国内しか見ていなかったからダメだと言われていたし、それは正しい一方で、「ゴジラ-1.0」も「君たちはなぜ生きるのか」もまず国内市場向けに製作され公開された。「ゴジラ」の方はアメリカ市場で公開する意図が最初からあったようだが、中身はコテコテの大和魂と和の力の物語だ。アメリカに無理に合わせた内容では決してない。
韓国のコンテンツ振興院は若い世代をサポートする
日本のコンテンツビジネスの潮目が変わりつつあるかもしれない。そしてYOASOBIとK-POPアイドルのコラボが示唆するのは、日韓の協力関係だ。先を行き過ぎた韓国にはかなわないと思われがちだが、韓国も日本と力を合わせたいと考えているように見える。
たまたまなのだが、以前インタビューした黄仙惠氏と年末に久しぶりにお会いした。前の記事でも黄氏は日韓の協調をメッセージしていたし、年末に久しぶりに聞いたお話もそんな内容が中心になった。その直後に私は紅白とNスペで日韓協調の最前線を目の当たりにしたわけだ。
年末の訪問はインタビューのつもりではなかったのだが、記事にする可能性を思って録音してあったので、黄氏の言葉で本記事の後半を構成しよう。(以下、太字が黄氏の発言)2018年4月から2020年12月まで韓国コンテンツ振興院の日本センター長を務めた黄氏(現在は城西国際大学准教授)に、振興院の役割についてあらためてお聞きしたかったのが、この訪問の目的だった。
「韓国のコンテンツ振興院の目的のひとつは、育成です。例えばドラマ制作のスタートアップを若者たちが設立したら、オフィスをバックアップしたり海外でのプレゼン機会を与えたり、チューターをつけて内容や収益ビジネスについて教えたりします。ずっとではなく、申請を受けて審査したのち大体1年間です。」
”ドラマ制作のスタートアップ”という言葉がまず新鮮に感じた。日本では既存の制作会社や放送局などで制作の経験を積んで実績ができたら独立したり会社を起業したりするので、”若者のスタートアップ”の概念は映像制作業界にはないように思う。
黄氏もそこには大きな違いを感じているようだ。
「日本にもVIPOやBEAJなど、コンテンツの海外展開を支援する団体はあります。でも補助金を出す相手はテレビ局やケーブルテレビ局、大手の芸能マネジメント会社など大企業も含まれていますね。この会社は立派で安心だから補助金を出そうという発想。大企業なのにどうして補助金がいるの?と思ってしまいます」
耳に痛い話だが、言う通りだと思った。例えば地上波ローカル局だって実は自己資本比率は異様なほど高く、いま厳しい環境とは言え明日潰れるほどではない。自ら投資する発想がないから補助金に頼ってしまうのではないか。
「コンテンツ振興院には投資および支援する価値があるかを見極める力が必要になります。たった3人の制作会社だけど投資効果があると判断したり、映画やドラマの監督、プロデューサーたちなど専門家にも判断してもらう。ただし審査する人は審査対象と取引してはいけません。公正、公平を保ちながら、ウェルメイドの作品が作り出せるようにサポートすることが大事です。」
日本の補助金審査ではスタートアップは評価されず、立派な企業が選ばれ大手代理店が実際を仕切ってしまう。そこから本当に新しいビジネスは生まれるだろうか。
「韓国の若者は仲間と一緒に企画して補助金をもらい、そのIPを拡大しつつ5年間スタートアップをやってみる。失敗したらその5年間のキャリアがあるので民間企業に入ればいい、という考え方をします。」
韓国のコンテンツ業界には、ベンチャー精神を認める文化があるのだ。
もう一つ、韓国コンテンツ振興院はドラマやゲームが中心で、映画業界には映画振興委員会があるそうだ。文化体育観光部(韓国の”部”は日本の”庁”にあたる)の実行部隊としてコンテンツ振興院、映画振興委員会、そして著作権委員会の3つがある。ドラマ(シリーズも含む)はコンテンツ振興院の担当だから映画とドラマは分かれているのだ。韓国では映画館の入場料の3%が支援金に回され、それを映画振興委員会が若い制作者に投資する。
分かれていた業界はコロナ禍により線引きがなくなった。「イカゲーム」のように映画会社が制作したドラマがヒットした。「ナルコの神」(Netflix配信作で個人的にすごく好きなドラマ)もそうだったという。
「放送用のドラマは編成上の都合で本数が決まります。でもOTT向けのドラマは何話でもいい。そして映画だから作れたアクションなどの表現力をドラマに生かし、クオリティが上がりました。」
それまでの映画とドラマの棲み分けがなくなることで世界で認められるドラマが制作でき、危機がチャンスを作った。VR制作も進化し、「ヴィンセンツォ」はイタリアを舞台にしたドラマだがイタリアに全く行っていない。
「イカゲーム」などで韓国ドラマが世界中でヒットするようになったのは、韓国のコンテンツ産業政策の積み重ねがあった上で、コロナ禍がもたらしたチャンスがあった。
日本コンテンツの成功は韓国とのwin-winな関係が鍵
黄氏が振興院の日本センター長に就任した当時から、ミッションは日韓協調にあった。
「韓国のコンテンツビジネスは長らくその半分を日本市場に頼ってきました。でも私がセンター長の頃はすでに韓国コンテンツを日本で無理に広げる時代ではなくなり、一緒にできる形をどう作るか、win-winの関係づくりが目標でした。」
共に成長するためには、日本の業界で変わった方がいい点がいくつかあると言う。
いつもにこやかに話す黄氏