ゴジラのアカデミー賞受賞は日本のコンテンツ業界にとって、とてつもなく大きな一歩だ【日本映画の絶望と希望・1】

映画「ゴジラ-1.0」のアカデミー視覚効果賞受賞はそれ自体が快挙だが、今後の日本映画産業にとっても大きな一歩になりそうだ。
境 治 2024.03.15
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ゴジラというブレークスルー

映画「ゴジラ-1.0」がアカデミー賞で視覚効果賞を受賞した。おめでとうゴジラ!おめでとう山崎監督!おめでとう東宝のみなさん!そしておめでとうロボット!

11日(月)に受賞が報じられると、山崎監督らVFXチームが壇上に上がりシュワルツェネガーとダニー・デビートからオスカーを受け取る姿がニュース映像で流れた。この時、山崎監督の隣の女性が男性の写真を手にしていたことに気づいただろうか。

写真の男性は、阿部秀司さんという映画プロデューサーでこの作品にも関わっているし、山崎作品には必ずエグゼクティブプロデューサーとしてクレジットされている。残念なことに昨年12月に亡くなった。

アカデミー受賞は天国で聞いただろうが、アメリカで公開されてヒットしたことは亡くなる直前に耳に入っていたそうだ。最期の最期で人生最大の喜びを感じたにちがいない。阿部秀司さんは、そういう”持ってる”人だ。山崎監督を世界に送り出す偉業を成し遂げた。

冒頭で「おめでとう」の最後に書いたロボットは「ゴジラ-1.0」の制作会社だ。阿部秀司さんはその創業者。そして私は、2005年から2011年までロボットの社員だった。前半は経営企画室長として、当時イマジカと経営統合してイマジカロボットグループとなり上場を目指す際、必要なことを多岐に渡り整える作業をした。社長だった阿部さんの横で事務方を務めたのだ。

またロボットが関わる映画について、いくら出資して興行収入がいくらになったらどうリターンがあるかをシミュレーションしたりもした。そうすると自然に日本の映画ビジネスの構造と課題が身に染みてわかるようになった。

最近はみんなが言うことだが、日本のコンテンツ市場はそこそこ大きいから国内でそこそこ回る。だから海外に出る必要がなかった。当時の私は、海外に市場を広げないと行き詰まると予測していた。いやすでに行き詰まっていた。

映画に限らず日本のコンテンツビジネスに携わる人々は全体的に国内のほどほどの市場に満足していて、海外に行くモチベーションが生まれなかった。だからヒットしても天井があり、しかも低い。満足していたのは大きな会社だけで、現場はいわゆる「やりがい搾取」されていた。

この袋小路から抜け出すには海外に飛び出し市場を広げるしかない。私がMediaBorderで海外展開の話題を時々出すのは、今もその思いがあるからだ。だがその後ロボットを辞めてからも考え続けた結論は、「実写は無理、アニメならいける」というものだった。逆に言うと、実写は海外展開を諦めるしかなくない?と考えていた。

そこに「ゴジラ」のアカデミー視覚効果賞受賞だ。なるほど!と思った。しかも取ったのは山崎貴監督、自らVFXを操り特撮で物語を構築できる人。なるほどと言うのは、普通の実写は難しいけど特撮という手があった!という意味だ。特撮なら海外展開できる!山崎監督のような実績と才能を持つ作り手ならいける!しかもゴジラのキャラクターパワーが強力なブーストとなった。ブレークスルーになる要素が揃った「これしかない」という形だったのだ。

ではなぜ海外展開がそれほど必要だったのか。日本の映画ビジネスの微妙な規模による限界についてさらに解説しよう。

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