24年の都知事選挙は、メディアのパラダイムシフトを明らかにした

東京都知事選挙は、小池百合子氏が当選する順当な結果に終わった。だが石神伸二氏が2位で蓮舫氏が3位だったのは大きな番狂せだ。そこにはメディアのパラダイムシフトがあった。
境 治 2024.07.09
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2024年7月7日は、メディアを考える上で重要な出来事が起こった日として後々語られるかもしれない。東京都知事選挙で思わぬ事態が起こったからだ。いや、もっとちゃんと観察していれば予想できただろう変化が、観察不足で私には読み取れなかった。ただ、誰が当選するかが問題だったわけではなく、誰が2位かが予想外だった。20時の選挙速報特番を見て、誰もが驚いたのではないか。

7月7日20時のNHK東京都知事選特番より画面をキャプチャー

7月7日20時のNHK東京都知事選特番より画面をキャプチャー

選挙特番で画面の左下に映し出された出口調査の結果は小池百合子氏の当確を示すものだが、同時に2位が石丸伸二氏であることを示していた。「蓮舫じゃないの?」思ったことが口から出ていた。何か自分が勘違いしていたことを知った。

「アップデートできてないのは政治とメディアです」

石丸氏の主張は断片的で何をやりたい人なのか、私には響かなかった。だが選挙後に知った彼の言葉は強烈だ。中でも「アップデートできてないのは政治とメディアです」の一言は、私のことを言われてるようで刺さった。その通りだと思った。政治と一緒に、メディアにも言葉を突きつけているのが鋭いと思った。そう、メディアも政治と同じくらい、アップデートできていないのだ。

小池氏は今回の選挙で、間違いもしていなければ都民の心を惹きつけるメッセージも特に発しなかった。「3つのシティ」とか言っていたが、いつもの言い方だしそれ事態が強く心を動かす内容ではなかった。だが選挙活動の十数日間を超える、8年間の実績があった。特に子育て世代がありがたいと思う高校無料化やひとり5000円の配布などが「次も小池さん」を強く後押ししていた。

石丸氏が獲得したのは小池氏支持者より、本来は蓮舫氏が獲得すべきだった無党派層のふわふわした票だった。選挙公示日の時点で大手メディアは「小池vs蓮舫」の構図で語っていた。実際、あの時点でいきなり投票させたら結果は違っていただろう。

6月20日の公示日以降、ものすごいスピードで状況が変わっていった。

「正義のフィルターバブル」に包まれた蓮舫氏

蓮舫氏は神宮外苑開発問題を争点にすると最初から言っていた。小池氏との明確な違いが打ち出せると考えたからだろう。

だが神宮外苑問題は、左寄りの人々が強く反対していた事案で、その集団が蓮舫氏支持者として集まった。それにより蓮舫氏の周囲が「先鋭化」してしまった。

「正義」を掲げる人々は、熱狂的に蓮舫氏を支持しSNSでも熱く投稿する一方、自分たちに反対する人には極端に攻撃的になる。中でも小池氏への「やめろコール」は品のない行為で見ていて悲しくなった。あれでは、つばさの党と大差ない。ところが蓮舫氏支持者の間では当然の行為と映っているようだ。

そしてこうした「正義のフィルターバブル」は外にいる人にとっては気持ちが引いてしまう塊だ。フィルターバブルとはネット上で起きる現象に名付けられたはずだが、街頭演説の場もまさにフィルターバブルになってしまった。だから攻撃的な行為でもフィルター内は盛り上がり、蓮舫支持者内では音楽をかけて大勢で踊ったりする。遠巻きに見ている人々はますます引いてしまうのだった。

本来は熱狂的な支持者が集まるのはいい現象のはずだ。映画「カメラを止めるな」も毎日実施した舞台挨拶に心を揺さぶられた熱狂的な支持集団が生まれ、その熱が波及していった。

だが左寄りの人々は先鋭化し攻撃的になる傾向が強い。いまや右翼系の人々より「怖い」集団に思える。そんな支持者たちに囲まれると蓮舫氏は自信を持っただろう。だが実際は、支持者が熱くなればなるほど、外にいる人々は引いていった。

こうして、蓮舫氏は本来獲得できたはずの無党派層を逆に失っていったのだ。過剰な「正義」は逆効果だと、今回ほど明確になった例はないのではないか。

「ネットとリアルを融合させる」と石丸氏は言い切る

投票日の選挙特番や翌日のワイドショーで石丸氏は何度も取り上げられた。選挙期間中はちっともフォーカスしなかった彼の発言がようやくテレビで放送された。発言には考えさせられるところが多いが、中でもびっくりしたのが「ネットとリアルを融合させる。今回の選挙のポイントです」と言い切ったことだ。

そして確かに、その通りの戦術を展開していた。驚くべきは、公示日から投票日までのほんの十数日間ほどの間に、この戦術がみるみるうちに支持者を集めていったことだ。

選挙でネットを活用することはかなり前から行われていたし、2016年の都知事選での小池氏はSNSをうまく活用して勝利を獲得した。ただ石丸氏は、当初は田母神氏と共に「マシな泡沫候補」としか思われていなかったと思う。今回彼に投票した若い層も、公示日にいきなり支持したわけでもないようだ。

228回もの街頭演説を小刻みに行い、その度にYouTubeで配信した。それに加えて、集まった人々に動画撮影を呼びかけ、さらにその動画を知人に見せるように訴えた。また、YouTuberたちが演説をライブ配信もした。

つまり石丸氏自身の拡散力が、集まった人々にも拡散させることで何百倍にもふくらんだのだ。「ネットとリアルの融合」とはこのことだ。それが、得票数165万票にもなり、1位小池氏の291万票には及ばないものの、3位蓮舫氏の128万票を上回ったのだ。政党や業界団体などの組織票抜きで165万票を獲得するなんて前代未聞だと思う。

そのことには驚くしかない。彼に対して批判する人は多いし、人柄には私も疑問を持つ点はある。ただ、「ネットとリアルの融合」がポイントだとし、実際に短期間で組織の支えなしに165万票を獲得した、その事実には感服するしかない。MediaBorder的には、そこに注目してしまうのだった。

このままでは、テレビは選挙から見捨てられる

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