暴走するネット広告に規制は必要ないのか?〜UNICORN山田社長からの問題提起〜

ネット広告の課題解決に動く会社のインタビュー記事です
境 治 2025.12.17
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クリーンなネット広告を実践する会社がある?

私は2010年代から、ネット広告の問題を訴えてきた。詐欺広告が平気で跋扈し、画面を所狭しと広告が表示され記事本体が読めない。なんとかしなくていいのか。

ただ、どうしたらいいのかとなると悩むしかなかった。そんな中、今年6月に総務省が広告主向けのガイダンスを発表。有識者たちが事業者へのヒアリングを重ねた末、打開策を「広告主企業の経営者に訴える」考え方に立ちまとめられたものだ。

広告受注の川上にいる広告主の経営者に、経営上のリスクとしてネット広告の問題を考えてもらうもので、解決の方向性として有効と思えた。

私はこのガイダンスをテーマにしたセミナーを10月末に企画した。質疑の時間に、ある女性がサッと挙手して「広告に規制をかける必要はないでしょうか」と訴えた。聞けば、彼女はUNICORNというアドネットワークの会社の広報で、「きれいな広告」を目指していると言う。そんなことあるのかと耳を疑った。

枠をどんどん増やして広告を無法地帯のようにしたのがアドネットワークだと認識していた。「きれいな広告」を目指すのは矛盾している。いったいどんな会社だ?

そこでその女性に社長への取材を要望した。出てきたのは山田翔社長。UNICORN社はネット広告事業会社アドウェイズのグループ会社で、山田氏はそのアドウェイズの社長でもあるという。ますます頭の中を疑問が渦巻いたが、山田氏の話を伺ううち、疑問は氷解していった。インタビュー記事にしたのでぜひお読みいただきたい。

失敗から生まれた「クリーン」への強いこだわり

UNICORN株式会社・山田翔社長

UNICORN株式会社・山田翔社長

UNICORN株式会社のルーツは2013年に遡る。アドウェイズグループの子会社として設立し、当時は別の社名で複数の事業を展開していた。その中の一つとして2015年頃からUNICORNという事業が始まり、2020年には会社名も現在のUNICORN株式会社になった。

山田社長がこだわる「クリーン」な広告への思いは、過去の苦い経験から生まれたものだという。「私にとって最初に成功した事業が、2011年にアドウェイズがリリースした『AppDriver』というサービスでした。スマートフォン黎明期に、広告経由でのユーザーによるアプリインストールを加速させ、ランキングを押し上げる効果のある広告プラットフォームを立ち上げたんです」

しかしこの事業は、AppleがApp Storeのランキングを人為的に操作するような行為を禁止する規約変更を行ったことで従来の手法が通用しなくなった 。

「スマートフォン業界を最初に牽引した会社の一つになれた気がしたのですが、規約が変更された途端、周囲の人たちから『不正なビジネスを行って儲けているのでは?』といったニュアンスの指摘をされるようになって。非常にショックを受けつつも、腑に落ちる思いでもありました」

この経験が山田氏の事業観を大きく変えた。

「次にちゃんと事業を作るんだったら、誰に対しても胸を張れる事業にしたいと思うようになりました」

クリーンなDSPを通じて実現する広告の理想形

 UNICORNが提供する主力事業はDSP(デマンドサイドプラットフォーム)と呼ばれる広告配信のプラットフォームである。

当初は機械学習を使った広告配信の効率化が目的だった。しかし機械学習を正しく機能させるには、広告データの「クリーン」さが不可欠だったという。

「機械学習はすごく素直なので、不正クリックが多い枠を学習すると、そちらにどんどん広告を配信していくようになってしまいます。それらを防いでいくと、クリーンな方向への流れが自然に生まれました」

このアプローチは、業界の大手競合他社とは一線を画すものだった。

「広告の配信の品質を問わない事業者も存在し、広告主はレポート上の数字だけを求める傾向にありました。それによって今の状況が作られているのです」

例えば、現在のネット広告ではビューアブルレートという指標が重視される。広告がページに表示された割合を示すもので、この数値が高いほど広告枠としての価値が高いと考えられている。そのため画面をスクロールしても常に表示する広告枠が増え、ユーザーに不快な体験をさせてしまう。

「記事を読んでいる横で小さく動画広告が流れ続けている状態で、15秒動画が全部再生されました、というレポートができてしまう。こういう効果計測のハックのために、邪魔な広告がどんどん生まれてきているのが実態です」

「正直者が馬鹿を見る」状況での挑戦

邪魔な広告枠に配信されないように、UNICORNでは2つの手法をとっている。

「1つはCTRやビューアブルレート等が異常に高いなど数値の不自然な広告枠を排除する手法。もう1つは広告枠を提供するSSPに、あらかじめ品質の低い枠は買わないことを伝えておくやり方です」

また、安全性を確認したメディアのみに広告を配信するセーフリスト方式の採用や、広告クリエイティブの審査も行っているという。なかなか手間ひまがかかるのだ。

そうすると「クリーンな広告」の具現化は、事業としては効率が悪そうに思えてしまう。だがその実直な姿勢が、長期的に見れば顧客からの信頼につながっていった。広告主も、レポート上の数字は良くても実際のユーザー増につながらない「効果のない広告」に気づき始めたのだ。特に大規模な広告予算を投じる企業やグローバル企業ほど、その傾向は顕著だった。

その結果、UNICORNは着実に成長を続け、2025年現在、取扱高約70億円、営業利益10億円近くを目指せる規模に至った。今やアドウェイズグループ全体を牽引する中核事業へと成長を遂げており、その理念と実績は内外から高く評価されている 。

クリーンな理念がアドウェイズの未来を担う

こうしたUNICORNの成長が、親会社であるアドウェイズグループ全体の経営方針を大きく転換させるきっかけとなった。アドウェイズ創業者の岡村陽久氏は、投資家的な視点からも「これからの時代に必要とされるのはUNICORNの考え方だ」と確信。短期的な利益よりも、長期的に持続可能で社会的に意義のあるビジネスモデルを重視し、2021年、山田氏にグループ全体の未来を託したのだ。こうして山田氏は、UNICORNの代表に加えてアドウェイズの代表取締役社長に就任することになった。

一方で、時代の流れはUNICORNの側に来つつあるとも山田氏は感じている。

「売上のためなら何をしても構わないという考えから抜けられない会社が多いと思いますが、最近は社会的意義のある事業がやりたいという若い世代も増えてきています。世間一般でも『消費者目線で見ると嫌だね』という声がどんどん顕在化されつつあります」

業界全体の課題とその解決策

山田氏は、現在のネット広告業界が深刻な構造的問題を抱えていると指摘する。

UNICORN社の資料より

UNICORN社の資料より

「広告の枠が増えすぎて記事が読めないようなメディアが増えて、そのためユーザーも離れていく悪循環に陥っています。そうすると広告枠の数をさらに増やして収益に走る企業が多いので、どんどん状況が悪化しています」

この状況を改善するためには、業界全体のルール作りが必要だと山田氏は考えている。特に注目しているのが、業界団体による自主規制の枠組みだ。

「JIAAのガイドラインに広告枠としてこういうものは良くないよという基準が実は存在しているんですが、ほとんど守られていません」

山田氏は、広告事業者がより厳格な基準を設け、それを業界団体が監査する仕組みが必要だと提案している。

「厳しい基準に引き上げられる事業者だけが認証される仕組みを作って、ここが業界団体として望ましい広告配信をしているので優先的に使いましょうという形にするのがいいんじゃないでしょうか」

広告のインフラとしての責任

山田氏は、インターネット広告と屋外広告を比較し、公共空間での広告には様々な規制があるのに対し、インターネット空間では規制がほとんどないという現状を指摘する。

UNICORN社の資料より

UNICORN社の資料より

「例えば渋谷のスクランブル交差点は1日26万人、月1000万人ぐらいが通る日本で1番大きい交差点です。ここは公共空間ということで、様々な条例や法律によって通行の妨げにならないようにすることが担保されています。一方、インターネットメディアでは100万人以上のユーザーがいるサイトが多数あるのにオフラインの広告のような規制がないのは矛盾しています」

山田氏は、この「クリーンな広告」という方針がビジネス戦略としても有効だと確信している。

「インターネット広告はレッドオーシャン化が進み、AIも台頭してくる中で、広告自体は社会インフラでもあると思っています。健全化する道に進めば逆にブルーオーシャンになるはずです」

UNICORN社の資料より

UNICORN社の資料より

利益追求しかしない事業者(上の図のグレー部分)がいる限り、倫理観を持つ広告主、広告事業者、広告媒体(上の図の赤い部分)は、いわば汚染される。要にいる広告事業者がまず規制を設けることで、広告取引全体が浄化されるはず、というのが山田氏の考え方だ。

「広告がなくなるか、健全化するかのどちらかしかないと思います。必ずどこかで寄り戻しが来るはずです。その波を待つだけでなく、波を起こすところまでできれば会社としての意味もありますし、社員にとってもやりがいがあるのではないかと思います」

ネット広告業界は、自ら動かないと世の中から見離される

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