TOKYO MXの生成AIを使ったテレビCMについて聞いてみた

生成AIの事例が続くが、今回は業務効率化ではなく映像表現への活用だ。
境 治 2024.08.28
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放送局らしからぬ強烈なメッセージ

東京メトロポリタンテレビジョン、通称TOKYO MXがこの春から新しいイメージCMを流しているのをご存知だろうか。4月1日付でプレスリリースが出ている。

とりあえず、CM映像(30秒版)を見てもらいたい。

そして、CM中で語られるメッセージも読んでほしい。

【キャッチコピー】 
どこまでも!マニアッ9。
【 ボディコピー 】
“みんな”が見たいものって、なんだろう。
一人ひとりの生き方も、楽しみ方も、多種多様に広がった今、
“みんな”なんて、本当にいるのだろうか。
TOKYO MXは、曖昧で顔の見えない“みんな”ではなく、
たった一人の“あなた”に深く刺さるコンテンツをつくりたい。
どれだけニッチなジャンルでも、どれだけコアな情報でも、
自分たちが「おもしろい」と信じたものを、
どこまでも自由に、どこまでもリアルに発信していく。
その番組を見るためにリモコンの「9」を押してくれる、
“あなた”がそこにいると信じて、
作り手と視聴者がマニアックな「愛」でつながる、
テレビの明日がそこにあると信じて。

テレビ局が世の中に発する言葉として、かなり大胆な内容ではないだろうか。「みんなではなく、たった一人のあなた」にというのは、放送が「あまねく人々」のためだとよく言われるのと正反対のメッセージだ。だがこれは、大きく捉えるとこれからのすべてのメディアが目指すべきことではないか。私は元々コピーライターだったので、既存の放送の概念に反するこのメッセージを発案したり上に通したり社内で浸透させる努力を想像した。並大抵の作業ではないし、並大抵の覚悟ではできるものではない。

さらにこの映像が生成AIで制作されたことにも驚いた。いくつかの企業がすでにCMを生成AIで制作した例はあるが、テレビ局が使ったのは初めてのはずだ。

そこでTOKYO MXに取材をお願いした。編成制作本部 編成局 の樋田光風編成部長が取材に応じてくれた。

編成部長の樋田光風氏とゆめらいおん

編成部長の樋田光風氏とゆめらいおん

30周年を視野に部署横断プロジェクトでコピー開発

TOKYO MXではこれまで、局のキャラクター、ゆめらいおんを起用した「つなげるテレビ。」という企業メッセージを発信してきた。このキャッチコピーを変えようとのプロジェクトが始まったのが2年前の10月だった。

「ちょうど2025年が開局30周年で、その方向づけも含めて各部署から人を集めてプロジェクトチームが始動しました。そのプロジェクトで決まったキャッチコピーを体現するCMがあるといい、ということで今回のCM制作に至りました。」

周年コピーをプロジェクトチームで開発するのはどの企業でもよくあることだが、多くの場合は総花的で曖昧なメッセージになりがちだ。「どこまでも!マニアッ9。」のようなエッジの立ったメッセージはどう生まれたのか。

「会社のバラバラ感を一つの方向に向けたいという課題感がありました。」

放送局のようなメディア企業はなかなかまとまらないし、それが良さでもあっただろう。だがこれからは、明確な方向性を示す必要があるのも間違いない。

「大変でしたが、一人ずつにインタビューを1時間ずつくらいしてTOKYO MXの核になる要素は何かを洗い出していき、何を大事にする会社かをいくつかの方向でコピーに落とし込んでいきました。それを投票形式で絞り込んでいって、最後に決まったのがこの言葉でした。」

私もこうした作業のサポートをしたことがあるが、会社として取り組む体制と中心となる人物の強い使命感が必要となる。一人一人へのインタビューも丁寧に取り組んだのだろうと想像した。

「社内のインナーブランディングも大切だと思ったので、百何十人かの社員一人一人可能な限り向き合って、社長も含めてインタビューしました。」

通常は宣伝部が担う作業だが、一時期あったものの今はそういう部署はないそうだ。樋田氏たち編成部が通常業務をこなしながら、ブランディング作業も進めていった。

それにしても、先述の「みんなではなくたった一人のあなた」というメッセージに、放送局はなかなか踏み切れない気がする。

「コピーを絞り込むまで実はそんなに時間はかかりませんでした。最後は二つのメッセージが残って議論にはなりましたが、このメッセージに決まりました。」

実は昨年の夏にはキャッチコピーは決定していたという。そこから生成AIを使った映像制作へはどんなプロセスがあったのか。

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