放送収入はもう伸びないことがはっきりした〜2022年度キー局決算を考える(1)

テレビ局の決算が出揃ったので、まとめて分析してみた。昨年来の傾向がはっきりした形だ。放送局はもう放送では伸びないのだ。
境 治 2023.05.15
誰でも

惨憺たる状況の在京キー局決算

先週、5月11日から12日にかけて在京テレビ局の決算が出揃った。放送業界の惨憺たる状況を如実に映し出す内容だった。

簡単なグラフを作ったので見てもらおう。これは決算説明会の資料から、各局の単体の数字を抜き出して比べたものだ。在京キー局はすべてホールディングス体制をとっており、それぞれ様々な会社を抱えているので、連結決算の数字ではかえって「放送事業」の実体を比べにくくなる。TBSならTBSホールディングスではなくTBSテレビだけの数字を見たほうがわかりやすいのだ。

在京キー局2022年度決算資料より筆者作成

在京キー局2022年度決算資料より筆者作成

テレビ局の売上の主軸は「放送収入」つまりCM枠を販売して得た収入だ。タイムとスポットの2種類があり、タイムは番組の中で流れるCM枠。スポットは番組と番組の間の枠で流れるCM枠。グラフでは青い棒がタイム、オレンジがスポットだ。グレイの部分は放送収入を除いた売上。映画やイベント、グッズ販売など様々なものが含まれる。2022年度は、すべての局で放送収入が前年比ダウンとなった。言ってみれば本業がダメだった。本業以外で頑張った結果、売上高全体ではプラスになった局もある。それは置いといて、この放送収入がすべてダウンしているのがテレビ局ビジネスの惨憺たる状況を如実に表しているわけだ。日本テレビのタイムが-8.3%、フジテレビのスポットが-9.4%なのが目立つ。またTBSは下げ幅が比較的小さい。などなど細かな部分はともかく、全体として「テレビ局の本業である放送収入はもう伸びない」ことがはっきりしたと言える。

テレビ画面を配信に奪われ視聴率急下降

これを中期的に見るとよりわかりやすい。2019年度から2022年度までのキー局の放送収入合計額の推移を見てもらおう。

在京キー局2019年度〜2022年度決算資料より筆者作成

在京キー局2019年度〜2022年度決算資料より筆者作成

黄色い棒が在京キー局5局の放送収入の合計額だ。2019年度は8,461億円あった。それが2020年度には7,520億円に急減した。2021年度には8,401億円に持ち直したが、2022年度は7,999億円へと下がった。コロナ禍により2020年度は一斉に各企業が広告予算を縮小させ、2021年度には戻したが、2022年度はまた縮小させた。ウクライナ侵攻などで日本経済が揺れたせいもあるが、一方でテレビ広告予算を減らしたことも大きい。折れ線グラフの方は視聴率だ。PUT(総個人視聴率)と言って、日本人のうち何%がテレビ放送をリアルタイムで見たかを示す。ここでは最も見られるゴールデンタイムの数値を使っている。2020年度に視聴率が上がったのはコロナで巣篭もり生活を強いられたからだ。だが同時にテレビでYouTubeやNetflixを楽しむ習慣も生まれて2021年度以降は視聴率が下がっていった。視聴率は言わば「商品在庫」だ。コロナ禍で人々のテレビの見方が変わり在庫がどんどん減ってしまった。この下降傾向はまだ続いている。2022年度は32.3%となっているがこれは年度の平均で、12月には30%にまで落ちた。まだまだ下がりそうだ。去年朝ドラ「ちむどんどん」の評判が悪く、視聴率も史上最低だと話題になったが、実はその前の大好評だった「カムカムエブリバディ」も視聴率は史上最低レベルだった。全体的にどの番組もどの枠もひたすら視聴率は下がっているので、内容の良し悪しと視聴率はさほど関係がない。今は大河ドラマ「どうする家康」の視聴率が良くないと記事になっているが、それも内容は関係ないのだ。

TVerに将来をかけるしかない?

とにかく、視聴率は下がっている。みんながテレビ放送を見る習慣から離れている。でもテレビは見ていて、YouTubeやNetflixを楽しんでいるのだ。テレビは番組がどれだけ良くても「放送」で見られないとお金にならない。「どうする家康」はBSやNHKプラスでも見られておりNHKはそれでもいいが、民放は「放送」で見られないとビジネスにならない。そこでTVerを開発し、そこで番組を見てもらいCMも見てもらうようにビジネスモデルを変えようとしている。いや、変えようとしているのか、これまで今ひとつはっきりしなかったのが、2022年度は「変わらなきゃ」と各局ともはっきり感じたらしいことがわかった。決算資料にも、「配信広告収入」を数字で示す局が出てきた。

在京キー局2022年度決算資料より筆者作成

在京キー局2022年度決算資料より筆者作成

日テレ、TBS、フジは決算資料の中にこのような数字を示している。中でもフジテレビは前年比7割越えで爆発的に増えている。ドラマ「silent」のTVerでのヒットもあり、「配信三冠王」(と、自らつけたわけだが)を獲得した、その勢いが数字にはっきり出ている。ただ、それでもTBSと日テレの方がまだ上。来年度のフジテレビは、この数字でトップを目指してくるだろう。こうなると、どうせ視聴率は多かれ少なかれ下がるのだから、伸びる配信に力を入れた方がいいのではないか。今の配信広告収入は放送収入に比べると微々たるものだが、毎年ぐんぐん伸びれば放送収入の減少を補う頼もしい柱になるかもしれない。実はテレビ東京はすでにそういうモードになっている。キー局は一斉にそっちを目指すのかもしれない。だがローカル局はどうなのか。その辺りも深掘りしたい。

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