さんいん中央テレビはこれからの地域創生の重要なモデルになるかもしれない(放送局に限らず)
さんいん中央テレビの事例を、3回に渡ってお届けした。
『かまいたちの掟』はローカル発でありつつ山陰ならではのネタに陥らず全国区で勝負できるバラエティを目指し、成功した。ACD社の中国越境EC事業は、中国人スタッフの感性を取り入れ、WeChatやbilibiliといった向こうのプラットフォームを活用してファンが育ってきている。
『かまいたちの掟』の川中氏、ACDに出向中の岡本氏、それぞれの話に自然と「社長」が登場してきた。さんいん中央テレビで注目したいのが、この社長の特異性だ。そこに、ローカル局再生の、そして地方創生の大きな鍵があると考えているのだ。
山陰の地域財閥「田部」の若きリーダーとして
田部と書いて「たなべ」と読む。一族経営の企業グループで、元々は紀州田辺から移り住んだらしい。「たたら製鉄」で長らく栄え、その豊かさを山陰全体に分かち合ってきた一族だ。(たたら製鉄とは、『もののけ姫』に出てきた中世の日本の製鉄方式のことだ)
田部家の当主は代々、田部長右衛門を名乗ってきた。現在は25代田部長右衛門が当主。田部グループを率いるとともに、さんいん中央テレビの社長でもある。
このテレビ局は先代に当たる第24代田部長右衛門が初代社長だった。当時島根県内にはテレビ局がなく、鳥取県米子市に本社がある山陽放送が島根県もカバーする形だった。島根県独自のテレビ局がほしいとの県民の声を受け、島根放送として誕生した。その後、鳥取県もカバーすることになり、現在のさんいん中央テレビの名に改めた。
この第24代田部長右衛門が1999年に急逝。その子息はまだ大学生だったため、田部家にバトンを渡すべく別の者が社長を継ぎ、本人は2002年にフジテレビに入社。テレビ局員として修行したのち、2010年にさんいん中央テレビに移り、2016年に満を持して社長に就任している。
現在43歳、社長就任時は36歳だったことになる。当時もだが、今も地上波テレビ局では最も若い社長のはずだ。
サラリーマン社長ではないから本気で改革できる
ローカルテレビ局の社長は様々な出自の人がいる。もちろん中には社員として功績があり組織内で推挙され社長になる人もいる。だが系列のキー局、準キー局から社長がやってくることも多い。資本などで関係の濃い新聞社から社長が来ることもある。出資している銀行から社長が来ることもあるし、株主でもある地元有力企業からの社長もいる。
そういう人たちの中に、優秀で人徳があり人柄も素晴らしい社長が数多くいるのも知っている。一方で、特にキー局や新聞社から送り込まれた社長の中には、「いつ戻れるか」ばかり気にしている人もいるとの噂もよく聞く。
こうしたどこかの組織を代表してくる社長は当然、「自分の会社」の意識が薄い。また年齢的には関与するのはほんの数年になるのが前提だったりもする。当事者意識がほとんどないのは自然なことだろう。
だから、何が問題かはわかっていても、どう対策するべきかを知っていても、そのハードルが高いと本気で手をつけないのも仕方ないように思う。
川中氏と森本氏から聞いた田部社長はまったく違うようなのだ。明確に自分が運営せねばならない会社だと認識している。自分が頑張らねば潰れてしまうかもしれない。実際、今のローカル局はどの局もそんな危機にある。父親が作ったテレビ局を自分が潰しては、父親に申しわけが立たない。それどころか、島根に申しわけが立たない。島根県にはなかった民放テレビ局を島根のために父親が作った。それをダメにしてしまったのでは、島根に何度謝ってもすまない。そんな気持ちになるのではないか。
だから田部社長は社員に「よし、やれ!」と言うのだと思う。「どうだろうねえ・・・」などとは言わない。悩んでる場合じゃないからだ。
「島根鳥取の視聴率より全国の1%でも見られるバラエティを作りたい」と川中氏が言ったら、「よし、やってくれ!」と言うのだ。ACDという越境ECの会社と出会ったら、こいつならやってくれると思える岡本氏に声をかけ「これ、やってくれ!」と言うのだ。
地域を背負ってたつ家に生まれた青年が、地域を背負ってテレビ局を率いている。だから、「やってくれ!」と言う。責任を持って言う。多分失敗したら「知らないよ、お前のせいだろ」とは言わないだろう。部下のせいにしても、自分に跳ね返ってくるだけだからだ。部下が失敗しても自分のせい。全部自分のせい。でもだからこそ、「やってくれ!」と言うのだろう。なぜならば、何かやらなければ、このまま放っておけば、さんいん中央テレビはなくなってしまうかもしれないのだから。
まだお会いしてもいないのに、いささか想像で書きすぎた。実は近日中に田部社長のお時間をもらってあり、インタビューする予定だ。実際、どんな人物なのか。私の想像通りなのか。いや想像を超えた人なのか。じっくり聞いて、じっくり書いてみたいと思う。
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