ジャニーズ事務所会見で「なぜ日本企業が変われないかがわかった」件について
「忖度は必要ない」と明言した新社長
9月7日のジャニーズ事務所の会見は、14時から2時間あたりまではしっかり見た。さすがに16時前には切り上げたが、会見は18時過ぎまで続いたというから驚きだ。
社名を変えないのは今後まずいと思うが、会見で話す東山紀之には誠実さを感じた。また井ノ原快彦は発言は少なかったがやはり誠実に、重要なことを言っていたと思う。
会見も1時間40分を過ぎたあたりで、松谷創一郎氏がちょっと長いが重要な質問をした。これまでのテレビ番組における「忖度」について、「ミュージックステーション」に所属外のグループが出演してこなかったなど、かなり具体的な例を多く挙げて、「今後、忖度は必要ないと明言してください」と言った。
東山はすかさず「必要ないと思ってます」と明言した。これは大きなことだったと思う。テレビ局はこれまでジャニーズ事務所の圧を感じて忖度でライバルグループを出演させなかった。これからは逆に忖度できなくなったと言っていいだろう。もし「ミュージックステーション」が相変わらずジャニーズ事務所だらけだったら非難されるし、出れなかったグループや退所したタレントが出たら「世の中が良くなった」実感を得られる。
イノッチが語った簡単に変えられない理由
さてここで私が取り上げたいのが、この後でイノッチ(井ノ原)が話した内容だ。ここはできるだけ元のまま書き起こしたものを掲載する
こういう立場になって「これはなんでこうなんだろう」と疑問に思うことが結構ありました。「なんでこうなの?」と言ったら「昔ジャニーさんがこう言ったから、 メリーさんがこう言ったから」というのをきちんと守ってきた、ちょっと昔のタイプのスタッフがいたのも事実です。「なんで?それ変えようよ」というのは、もう毎日言ってます。だから、 1度なくしますと言っても、急になくなるものじゃないと思うんですよ。だって、白波瀬さんも「(競合グループを出演させるのは)やめろ」って、最初は言ったかもしれない。でも、その後はずっとそれが続いてるだけなんだと思うんですよ。それ正さなきゃいけないと思ってて、だから毎日やってるんです。 東山さんも、毎日「何これ?」っていうのはあると思います。だからそれを1つ1つやっていくっていうのが、 芸能の仕事をされていたらそれができない(東山が芸能活動を引退すること)とおっしゃってくださって、僕らは(東山に)憧れていたので、続けてほしい気持ちはありますが、それだけ忖度って日本にはびこってるから、 これを無くすのは本当に大変だと思います。だから、皆さんの問題でもあると、一緒に考えていく問題でも あると思いますから、そこらへんはご協力いただいた方がいいと思います。(このあと、東京新聞の望月記者が「テレビ朝日は今日も会見を中継してません」と叫び、イノッチに「やってますよ」と切り返される笑える一幕もあった)
ジャニーズ事務所の構造は日本の組織と同じ
イノッチのこの発言を聞いて、これはこの国の古い組織、数十年やってきて創業者が退いた会社がなかなか変わらないのと、そっくり同じだと思った。一から作った人はすごいしリスペクトする。だが、以前はそれでよかったことで今は変えたほうがいいことがいっぱいあっても、創業者が決めたことだから、先輩方がやってきたことだからと変えられない。それを続けていると損してしまうことでさえ変えられない。
創業者が存命中は表向き退いても”院政”みたいなことになってしまうから変えられないし、亡くなった後でも亡霊のように創業者の束縛は組織に残る。古参社員は「でもそれを変えたら先代はあの世からダメ出ししてきそうだ」なんてことさえ考えてしまう。
ジャニー喜多川(享年87歳)が亡くなっても白波瀬傑(70代)が副社長としてまだ旧弊を守ってきたから、会見には出られなかった。自分が全否定されてしまうからだ。東山、井ノ原、藤島ジュリーら50代の人々がその尻拭いをしながらなんとか継続させようとしている。彼らはもう放り出せない立場だから。この構図は日本の会社とほぼ同じではないか。
でも彼らには変えられないだろう。外から来ないと、変えられないのだ。中にいた人たちには、亡霊が見えてしまうから無理。会見でも再三、ジャニーさんへの「畏れ」を口にしていた。だとすると、組織として衰える一方なんだろう。
社名を変える決断ができなかったのも「畏れ」からだろう。彼らにはジャニー喜多川の姿があちこちに見えてしまう。そんな状態でその名を冠した事務所名を変えることは、亡霊を消そうとするようなものだ。
だからこそ社名を変えて亡霊を退治せねばならないのだが。すでに所属タレントのCM起用をやめる企業が出てきたが、せめて名前を変えないと、続々続くだろう。
放送業界も同じ構造は多いのでは?
いろんな業界で同じことが言えると思う。放送業界は、ちょうど古くなった典型的な業界だ。ジャニーズ事務所と似た問題を抱える放送局はきっと多い。
キー局には事実上、院政がしかれていると言っていい局が2つもある。いずれの人物も、往年はその局のポジションを押し上げる偉業をやってのけたが、いつまでも権力の座に居座り、逆に誤ったやり方を続けてしまっている。片方は、明らかに業績が下がり続けているのに、その責任は業務執行者にあるとばかりに、社長の首を次々に替えている。最大のガンは院政をしく権力者自身なのに。
誰も、何も言えない。ジャニーズ事務所の例を見ると、もし亡くなっても、その意思を託された者が君臨し、何も変わらないかもしれない。そう考えると恐ろしい。
先日、米国のニュースチャンネル大手CNNのCEOがマーク・トンプソン氏に指名されたと報道された。彼はデジタル化を成功させたニューヨーク・タイムズの前CEOであり、その前は英国BBCの会長だった。メディアの改革に成功したので引き抜かれたのだ。
日本のテレビ局ではこんなことは絶対に起こらない。テレビ局はいま業績が伸びず苦しんでいるが、それでも遠くから社長を呼んできたりしない。株主企業の中で次はあいつだと社長を決める。ローカル局の場合だと、地元財閥とキー局など中央のメディアとの話し合いの中で決まる。同族経営ではないが、長らく付き合いのある企業の中で経営者を決めるから同族経営とあまり変わらない。そうすると、改革なんかできない。二、三年の任期では、長期的な改革なんかできずに、その間にできるだけ赤字にせずに終えようとしてしまう。
他人事ではない、という教訓
前に紹介したさんいん中央テレビの田部長右衛門社長は例外だ。30代で社長になり、おそらく今後ずーっと経営を続けることになるからだ。ただ、血筋として経営を背負う彼でさえ、古参役員の抵抗にあったことも記事に書いた。
田部氏は創業者の息子という背景があってもなお、古参勢力の意見を排除するために、ちょっとした革命を起こす必要があった。だが多くのローカル局では外から見てもわからない「院政」がしかれているケースも多い。改革は限りなく不可能に近いだろう。東山、井ノ原、そして藤島も誠実な会見を行ったと思う。だが社名を変える決断ができなかった時点でジャニー喜多川の亡霊への敗北だ。やはり外から社長を連れてこないと改革はできない。ホリエモンこと堀江貴文が北九州市のFM局、CROSS-FMの会長に就任したそうだ。この局は長らく経営が安定せず青色吐息だった。きっとネットと相乗効果を狙うユニークな再生策を展開するだろう。私は期待している。そしてこれくらい異質の人材が外から来ないと放送局は変われないだろう。そんな企業はきっと、そこいら中に実はある。ジャニーズ事務所の会見は、決して他人事ではないと思う。
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